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2020-06

銀の匙のこと その2 - 2012.10.16 Tue

 牛や鳥やおさかなも 人間のためにあるのよ
 さぁ 残さずに食べなさい
 そんなふうに言うおかあさんには なりたくありません
 でも私だって 食べて育ってきたのだし
 虫だって 殺したこともあります

 イルカ / いつか冷たい雨が

前回に引き続き、荒川弘さんの「銀の匙 Silver Spoon」です。

 「銀の匙のこと その1」ではキャラクターについてだったので、その2では作品のテーマについて考えてみたいと思います。 マンガのテーマとは作者が作品を通して読者に伝えたいことです。 それは「反戦や反核」などの社会性のあるメッセージや、「人間の持つ闇の部分」といったややこしい話ばかりではありません。 読者に「笑って欲しい」とか「泣かせたい」などのシンプルな考えでもかまいません。 
例えば「いじめ」を扱うシナリオを考える場合、「いじめはいけないこと」だと訴える描き方と「いじめられっ子が逆襲する」描き方では全然違うマンガになります。 しかも「スカッと逆襲」と「ねちねちと逆襲」でもちがいます。 読者を「感動させる」のか「笑わせる」のか「怒らせる」のか「爽快にさせる」のか? いじめを題材にしても様々なマンガになります。 「なにをどう見せるのか?」がマンガでいうところの作品のテーマです。
投稿マンガには必ずテーマの有無が視点基準になります。 それはテーマを明確にしないマンガは読者不在になりがちだからです。

 「銀の匙」のキャッチに「酪農青春グラフィティ」と書かれています。 荒川さんの実体験からくる酪農コメディが一番のテーマでしょう。 ニワトリの卵がどこから出てくるか?でっかいコンバインやたまこの家の巨大農場など、いわゆる「農高あるある」ですが「あるある」に限界があるのはテツandトモが証明しています。
1次産業をメインにしたマンガは少ないですし、このマンガほど職業デテールの凝った少年マンガは珍しいです。 生徒や先生や地域人々、全てのキャラが労働に対して真摯で嘘つきやズルをするキャラが出てきません。 悪者が一人も出てこない物語って意外と少ないんですよね。 自分は本気で何かを目指すマンガ(スポーツなど)には、足を引っぱるような卑怯者(イヤな上級生とか)が出てこないほうがサクサクして気持ちいいと思っています。 主人公はくだらない困難じゃなくてもっとおおきな困難に立ち向かうマンガが読みたいんです。 イヤなやつが出てこない「素敵な学校」が読んでいて好感できるんでしょうね。 それはマンガだからこそです。 本物の農業高校にイヤなやつがいないと思ったら大間違いです。 そんなハズありません。(知らないけど)

 メインのストーリーになるだろうテーマは八軒(主人公)の自分探し。 中学時代まで学力だけが価値基準だった反動で両親や先生に反発し、農業高校へ逃げ込んだ八軒がどう世の中と折り合っていくのか? もしくは折り合わないでいくのか?
前回のキャラのお話の続きになるんですが、八軒というキャラが素直なのかひねくれてるのかも定まっていません。 全編通して「イイ奴」として描かれています。 まわりに怒られるのは酪農に慣れていないための不手際のせいだし。 この性格のキャラが親に反発してドロップアウトするようには思えません。 設定では中学時代にはノイローゼになっていたハズです。 でもキャラ割り同様に設定に過ぎないのかもしれません。 
初期には価値観の違いやヤル気のない態度を織り交ぜていましたが、キャラを動かしていくうちにすっかりエゾコーに馴染んでますよね。 「郷に入れば郷に従え」なんでしょう。 それは荒川さん自身の農高時代の実体験なのかもしれません。 
そうすると自分探しで自問する八軒のほうがキャラ違いに見えちゃいます。 ひねた子供が素直な働き者、何も考えて無かったが考え過ぎ、陰気で無口が明るく話し好き・・・ なんだかマンガを面白くするコトに夢中で、初期の設定が邪魔になってるような感じです。  目的もなく入学した八軒と目的や将来のカタチのある同級生たちとの対比でお話が進むんだと予想してました。  

 もう一つのテーマは「経済動物の生と死について」という重い題材です。 八軒が実習で世話した子豚に名前を付けたことで情が移ってしまう。 出荷される段になってその豚1頭丸ごとを八軒が個人で買い取ってしまう。 その肉で豚丼やベーコンを作りみんなから喜ばれるという展開です。 1巻の後半に豚が生まれて3巻で解体、4巻でベーコンになります。 その間も農高イベントやバイト先で鹿の解体などのドラマが織り込まれています。
この日記を書くにあたってもう一度読み直したんですが、八軒が何に悩んでいたのかがよく解らないんですよね。他の生徒は酪農が家業だから牛や豚を出荷することに疑問がありません。 でも普通の人にも豚を殺して食べることには疑問がないです。 子豚が可愛いからといって「殺すのは可哀想」という発想もストーリーとしては考えられなくもないです。 でもそれは連載のなかの1話として「名前を付けたら食べられなくなるからヤメロ!」というツッコミひとつで終わるような話です。 正直3巻でまたこの豚のエピソードが出てきて「えっ?まだつづいてたの?」って思っちゃいました」 八軒の中で納得できない問題があって当人なりに考えた答えが自分でベーコンにするというコトです。 「生き物を喰うってこんなもんだよねって達観すれば楽だけど、俺はそれはやっぱ嫌です」という結論なんですが、何回読み返してもピンと来ないんですよね。 八軒風に言えば「そんなセリフは読み飛ばしちゃえばマンガも楽しいだろうけど、作者が語らせたセリフを読み流したりしたくないんだよね」って感じです。 
経済動物の命について悩むエピソードは前回の日記で比較対象にした「じゃじゃ馬・・・」にも出てきます。 競走馬の牧場で種付けしたら双子が出来ちゃって、双子は売れないから潰すかどうか悩む展開。 主人公の熱意で産ませることになるが、情に流されただけじゃなく出走までこの馬と付き合っていくことになります。 物語としてちゃんと消化している例です。
2巻で八軒はバイト中にアキの祖父に鹿の死体を解体するように命じられるんですが、そのエピソードも「酪農あるある」のネタのように見えます。 死生観や食育のつもりで描いてるのか巨大コンバインと同じようなネタとして描いてるのか? 正直言って高校生がこんなことで悩むかな?っていうのが初見での感想です。 主人公以下、全員が小学4~5年生だったらスゴクしっくりします。 「東京のお受験小学生が親の都合で北海道に一人暮らしする祖母に預けられて、現地の小学生とのカルチャーギャップに苦しみながら生きることの意味を考える」みたいなお話で。 コレだと荒川さんが得意な農業高校が出てこないけど・・・ 

 八軒が悩んでいた「可愛いのに食べちゃう」という問題は、実は物語の定石といえる展開です。 多くのマンガがそれを描いています。 でも、そのキャラが高校生っていうのは珍しいですね。 解りやすい例で紺野キタさんの「つづきはまた明日」というマンガのエピソードを紹介します。 この方は同人誌からプロになった経歴のマンガ家で、ファンタジーとハートフル、ちょっぴりのきつさを併せ持った感じです。 紺野さん得意の片親&幼い妹とお兄ちゃんマンガです。

つづきはまた明日
 
「可愛いのに食べるのは可哀想・・・」って小さい子が言うのは正解ですよね。 しかもこのマンガは清ちんの疑問に答えを出してトリ肉を食べられるようにしています。 チャラになる呪文があるんですよ。 八軒のように悩んだ自分に酔うみたいな“モヤモヤ”が残りません。
冒頭のイルカさんの歌にもちゃんと答えがあります。(歌のサビのあたり)

 答えがないのが青春なんだろうけど答えをだすのがストーリーです。 答えが見つからないほど難しい問題でもないような気がします。 そんなことも考えられないほど八軒は小中楽時代に心がまいっていたのか? そーいうエピソードも作中では出てきません。 お話として描かなきゃ伝わらないんですマンガってヤツは。 
「設定だから」で納得してもらえるのはファンタジーだけですよね。 


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