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2019-12

みんな宮本だった - 2019.10.27 Sun

新井英樹さんの「宮本から君へ」です。

 10月現在、実写映画版の「宮本から君へ」はまだ公開中です。この日記を書こうとした頃は絶賛上映中だったのですが・・・ 公開前に映画版の主演の池松壮亮さんやヒロインの蒼井優さんが、伊集院さんのラジオ朝番組のゲスト出演したのを聴きました。だいたいどんな仕上がりになってるかは想像できますので、今回は 映画.COM のレビューはナシです。町山さんの映画評では「蒼井優のお尻が観れる」とのこと。自分はこーいう日本映画の頂点のような映画は大の苦手なので、観るつもりがまったくないから批評する権利すらありません。ふわっとしたイメージなんですが、日本映画が頑張って映画を作る時「より本気で殴ってる。汚さがホンモノ、どうかしちゃってる・・・」を前面に出さなきゃ評価されない感じがします。自分は町山さんのレビューも出演者や監督のインタビューも聴いた上で「そんなに観たい映画じゃないかな?」って思いました。
映画評の中で「常軌を逸した迫真の演技」とか「怪演」とか映画ならではの褒め言葉があります。自分はこの映画の役者の迫真の演技が苦手なので「宮本と靖子がマンガそのままに迫真の演技」って言われちゃうと、迫真の役者を2時間観続けるパワーが自分にはありません。大竹しのぶさんとか樹木希林さん何かはチョー苦手です。役になりきってる大泉洋さんもちょっと嫌かな?したがって今回は映画の評価に興味がなかったから、映画.COM のレビューもナシです。
聞こえてくる評価はいずれも「今年の邦画ナンバーワン」とか「完璧に宮本(褒めてるらしい)」など、いい響きの評価が多いようです。原作が非常に熱量の高い作品で、忠実に映画化したとすれば賛否はまっぷたつになるハズです。プロ映画マニアやアマチュア映画評論家に惑わされることなく、観た人が判断してほしいです。観客にはいい映画を選ぶ権利があります。その権利を使ってください・・・
そんなわけで今回はマンガ版の「宮本から君へ」についてです。映画が賛否分かれる以上に連載時から好き嫌いがはっきりした作品でした。自分の連載中の印象は「新井英樹さんは青年マンガの歴史を変える」という最大級のリスペクトだったと思います。実際に青年マンガが変わったのかどーかはベット書きたいです。
映画から来た人たちのイメージだと池松壮亮さんと蒼井優さんの演技の熱量をそのままマンガに期待するでしょうが、あの熱量は「宮本から君へ」の全編でいえば1割~3割くらいです。ストーリー前半は「うだつの上がらない宮本のいじけたストーリー」です。このうだつの上がらない宮本のパートがテレ東系の深夜ドラマで放送されていました。そのスタッフによる後半パートが映画版「宮本から君へ」です。「伝説巨人イデオン」の発動編みたいなものでしょう。靖子の登場から区切るんだったら大東製薬編の後あたりから始まるストーリーでしょう。

「宮本から君へ」は30年前の青春マンガで講談社の「モーニング」で連載していました。「モーニング」は「クッキングパパ」が連載しているマンガ誌です。当時の青年誌でNo.1サラリーマンは島耕作でした。今は経営サイドの人間ですが、当時は彼も大手企業のぺーペーからスタートしていました。宮本は当時の中小企業文具メーカーの営業です。両方が「モーニング」で掲載されていたことに当時のマンガ青年誌の健全さが感じられます。
宮本と島を比べてもしょーもないのですが、宮本はダメリーマンの全てを抱えた新人営業マンです。正直いって30年前に読んだっきりの作品がリバイバルするとは思ってもみなかったことです。さすがに手元に原本がないから記事の正誤が取れないのですが、映画の報道やレビューでかなり思い出しました。
映画版のレビューでも「好き嫌いがハッキリ分かれる」とか「自分にはムリだった」とか「人生最高の作品になりました」という感じですが、マンガ版でも連載当時から意見は分かれていました。まず原作者の新井英樹さんのマンガのタッチに好き嫌いが分かれます。完全に劇画タッチで汚い描写も克明に描き込むから嫌悪感も増幅される画風です。弘兼憲史さんは大企業のオフィスを清潔に描きますが、新井英樹さんは中小企業の事務所を雑然と描くのが上手です。このタッチのマンガが読めないと話しは先に進みません。
次に宮本弘という主人公が好きになれるかどーかで分かれます。強敵にガンガンぶつかっていく根性の塊のような宮本は映画の中のハナシです。マンガでも最後はガンガンいくんだけど、大半は根性なし野郎が主役のマンガです。
ストーリーの大まかな展開はトヨサン自動車の受付嬢へ片思い~玉砕、神保の引き継ぎ~大東製薬案件~回転土下座~失注、靖子とエチエチ~元カレと対峙、靖子レイプ~ラグビー部長とラグビー息子と対決~勝利、靖子妊娠~互いの家族と顔合わせ~出産・・・っていう感じのストーリーです。
そのほか同級生の葬式で喧嘩するとか知らないサラリーマンにいいパンチを貰うとか、陰キャラ設定の女の子とホテルで何もしないとか、断片的に思い出すんですが、なにしろ30年前のマンガなのでぼんやりとした記憶のかなたです。
それでも新井英樹さんの次作の「愛しのアイリーン」は主人公の名前すら思い出せませんし、「ザ・ワールド・イズ・マイン」に至っては多分最終巻を読んでいないと思います。ストーリーに興味を失せたんだと思われます。正直それ以降の新井英樹作品は読んでいないので、自分は「アンチ新井英樹」なんでしょう。ここまで書いておいてそれか?って感じですね。

 映画版は後半のラグビー親子編を中心にしてるんだと思われます。宮本のキャライメージを「ザ・ワールド・イズ・マイン」でいえば前半がトシのようなうだつの上がらない人物で、後半はモンのような破天荒なオレ様な人物です。人物像が変わっていく過程で、宮本のキャラ像の「融通がきかない、思い込みが強い、やせ我慢が得意」という資質が効いています。これらがネガなストーリーだと鬱陶しい面倒なキャラになります。同じ人物でも強敵に立ち向かわせると根性の塊のようなキャラになります。
好き嫌いで分かれる作品と描きましたが、自分は前半のうだつの上がらない宮本が結構好きでした。自分のまわりでも宮本は絶大な人気で、「宮本から君へ」の単行本は当時勤めていた会社の寮の人が買っていたのをまわし読みしていたんです。記憶が曖昧なのもそのせいかもしれません。是権の評価は知りませんが、社員寮の中では大ヒットマンガでした。
大人気だった理由は全員が宮本そのものだったからです。宮本の仕事はメーカー営業ですが、自分は問屋セールスをしてました。作中でいえばハタダのようなメーカーから見て一次店です。問屋のぺーぺー営業マンだから、宮本の苦悩は全部自分たちの苦悩です。大した業績も上げられないから苦労してるんじゃなくて苦悩してるだけでした。宮本のストーリーでいえば大東製薬の案件でコクヨンと競合やラグビー部長へ売り込むのは仕事の苦労のストーリーです。そこに行くまでの失恋編の頃の宮本は苦悩してるだけです。一番象徴していたのは宮本の客先で笑えないということ。みんな「自分は宮本ほどヒドくない」と信じていたんですが、小田課長から見れば宮本もお前らも変わんないって言うでしょう。
それまでのサラリーマンマンガは弘兼憲史さんのような大企業か本宮ひろ志さんのような破天荒っていう感じでした。業界マンガだと業種にこだわった作品もありましたがそれはサラリーマンのマンガではなくて業界のマンガです。本気で営業先の仕入れ担当に説教されるサラリーマンを描いたマンガは初めてだったと思います。
マンガでのサラリーマンは大体がプロジェクトを成功させるか会議で企画を提案するかでした。何のプロジェクトなのか?何の企画なのかは描かれていません。何故ならばほとんどのマンガ家が企業に就職したことがないからです。それぞれ後日知った情報なんですが、初芝電気産業を描いた弘兼憲史さんは松下電器から脱サラして島耕作を描きました。新井英樹さんも某文具メーカーを脱サラして宮本を描いたんです。このふたりが描くさらりーまんはホンモノのサラリーマンです。さいとうたかおさんは元スナイパーというわけではありませんが、デューク東郷はホンモノの暗殺者ですけどね。

 映画の評判によってマンガ版への関心も高まることでしょう。連載時のコミックスは当然絶版になっているだろうし、復刻版もかなり前なので入手不可だと思います。映画がらみの原作マンガだからこの期に何らかしらの動きがアルン土楼と思います。(調べてないけど)電子コミック系では買えるんじゃないかな?
問題は今の新人サラリーマンに宮本の苦悩が受け入れられるのか?という疑問です。あの頃は誰もが宮本でありお調子者の田島であり、明日にでも辞めてやるって叫びながら今日も営業に出かける日々でした。トヨサンの受付嬢みたいな女性も夢物語じゃなく存在したし、蒼井優さんはいないだろうけどマンガ版の靖子みたいな女性は何処にでも実在しました。不毛な合コンも結構あったし、ラッキーエッチも全て架空のハナシではありません。しかも宮本に描かれてる日本はバブル全盛だけどバブル自慢の思い出補正マンガでもありません。当時の若者の記録として残るべき作品です。
このマンガを映画版は西暦何年の設定で撮ったのかは知りませんが、令和の秘本に置き換えるんだったら宮本という人間に違和感があると思います。当時の宮本を読んでいた読者は役者が怪演している宮本と靖子を見ていたんではなくて、どこにでもいる宮本と靖子をみていたんでsっよね。だから宮本を嫌いな人も一定数しるし、その人は現実の宮本が嫌いなんだからしょうがないんです。自分も現実の宮本が同僚だったら嫌だけど、そんな自分たちが宮本とどっこいどっこいだからしょうがないんです。
自分は転職したけど今でも違う業種の問屋でルートセールスをしてります。あの頃のルートセールスと今のルートセールスでは人間関係や取引先との関係も全然違っちゃっています。正直いって今の新入社員の仕事内容や生活基盤と宮本の苦悩はかけ離れてる印象です。みんな不毛な合コンなんかしないでしょうし、ラッキーエッチまアニメの中のハナシだと思ってるようです。
復刻版が読めるのなら今さらながら読み返してみたい気持ちはあります。自分が当時思っていた宮本への感想と、宮本じゃなくなった今の自分の読む宮本への感想がどう違うのかには興味があります。
だからってペーぺーだった寮生活が長束しかといえばそんなことはありません。あのクソみたいな日々に戻りたいとは思いません。そう「宮本から君へ」というのはクソみたいな日々を克明にマンガ化した作品です。


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