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2017-10

吉野朔実を考察する - 2016.05.04 Wed

4月20日、マンガ家の吉野朔実さんがご病気のためお亡くなりになりました。 享年57歳。

 吉野朔実さんという名前は、昔からのマンガファンを自称するような方々にとっては大メジャーな方です。 しかし最近のマンガシーンでは必ずしも名が通ってるマンガ家さんとは思えません。 自分もメディアの訃報記事で知ったのですがこの手の記事を書く記者たちが必ずしも故人についての情報を持ち合わせてるワケではありません。 頼みのウィキも記述が淡泊過ぎて「代表作は“少年は荒野をめざす”や“ジュリエットの卵”など」っていうのが精一杯みたいでした。 書評などマンガ家以外の活動も多く一般誌での執筆も多かったのですが、病名や経過が非公開というあたりにミステリアスな作風の吉野朔実さんっぽいかなって思ったりしました。
80年代、少女マンガが華やかしき時代をリードしていたマンガ家さんのひとりなので当時の作品が代表作なのは間違いではないんですが、亡くなる直前までマンガが掲載されていたほどの現役マンガ家だったのだからって思います。 吉野朔実さんにご自身の代表作を聞いたら、少年は荒野をめざすとは答えなかったんじゃないかな?

 当時の吉野朔実さんが描いていたのは集英社の「ぶ~け」というマイナー系少女マンガ誌でした。 「りぼん」や「マーガレット」が本誌というならば、そっちじゃないマンガ家が多かった感じで、 マニアックというよりも読み応えがある少女マンガっていう位置づけでした。 伝説のマンガ「草迷宮・草空間」が掲載されたのがぶ~けです。 逢坂みえこさんや稚野鳥子さんの初期作品などが記憶にありますが、その中でも吉野朔実さんは異彩を放っていました。 自分が少女マンガで初めてショックを受けたマンガ家は吉田秋生さんでした。 それまではジャンプ等少年マンガがマンガの全てだと思っていたハナタレ小僧に、本当のマンガは少女マンガのほうにあるって思わせたのが「カリフォルニア物語」でした。 ちょっと少年マンガなんか読んでられないってくらいに染まってましたね。 そのころ影響を受けまくったのが川原由美子さんや惣領冬美さんや小椋冬美さんなど。 そして影響を受けないようにしていたのが吉野朔実さんでした。
最初に読んだときの吉田秋生さんと吉野朔実の共通点は名前が読めなかったということ。 秋生はアキオ?シュウセイ?しかも朔実にいたっては朔という漢字を見たことがなかったくらいに読めませんでした。 朔とは新月のことで、朔日は一日(月の初めの日)朔旦は一日の朝、朔方は北のほう、初日とか北とかを意味する字なんですね。
もうひとつの共通点は男のひとが描いているんじゃないのか疑惑があったこと。 二人ともまごうことなき女性マンガ家です。 しかし吉田秋生さんは男らしいガンファイトや男子高校生特有の栗の花臭さが、少女マンガ家を目指すような夢見る乙女たちには知るよしもないハズだったから。 吉野朔実さんは逆に作風はどっぷり少女マンガなのにセリフや画面構成に少年マンガのような厳しいドラマ性を感じました。 一言でいうならば男が言いそうな理屈っぽいセリフを書くマンガ家って思ってました。 両者とも、しらいしあいさんや陸奥A子さんみたいな少女マンガは描きたくないっていう歪んだ志の少女マンガ志望者たちの憧れになりました。 当時の80年代少女マンガブーム(そーいうのがあったんです)では大島弓子さんは評価されるけど陸奥A子さんはナシっていう風潮がありました。 「絵を上手に描く努力はしたくないけどマンガは描きたい」という横着な人たちはわかつぎめくみさんを目指したんですよね。 描きたいストーリーもキャラの絵もちょっとくらいで良いんだって思わせてくれました。 コレならすぐにマンガが描けると。 広いところはトーンで良いんだ・・・同じ白いマンガでも紡木たくさんはストーリー構成と仮面の白さが一体となった高度な技術のマンガなので、シロートが真似すると手抜きマンガにしか見えません。

 今回のテーマが「吉野朔実を考察する」というタイトルなのですが、マンガなんていうモンは考察したってあんまり意味って思っています。 この日記では過去にもマンガについてあーだこーだ書いてきましたが、宇多丸さんの映画評のような「コレはアレのオマージュでソレの作品を観ればナゼコレだったのかがワカリマス」っていうのはマンガを理解するのには必要のない知識だと思うから。
吉野朔実さんのマンガに対する文献はどれも考察というか論文というような真摯で洞察なモノが多いです。 すげぇ面白いとか主人公がチョー大好きといったライトな文章の人はあんまりいませんね。 ざっくり検索した所で不作為に拾ったブログの記事を引用させて頂きますと・・・

 『この作品の「良さ」を言葉にするのは、とてもむずかしい。それでもなんとか説明してみるならば、人の感情の割り切れなさ、これが「善」でこれが「悪」なんていう簡単な区分けのない、生きた感情がそこにあった、ということだと思う。』

難しいのは作品のテーマではなくて良さを伝えようとしている文章のほう?

 『今日は昨日の続きじゃない--/だから…/明日も今日の続きじゃない」という台詞ではじまる。これは大島弓子さんの『バナナブレッドのプディング』の冒頭「きょうはあしたの前日だから/だからこわくてしかたないんですわ」という名台詞への返答のような作品だと思う。』

これは典型的な宇多丸節ですね・・・

べつによそ様のブログをデスるつもりではなく、マンガの考察の正しいあり方ってこーいう感じってことです。 自分が書こうとしてるのはマンガの描き方のテクニカルな部分についてで、マンガの感想文っていうワケではありません。 だからこの表現に感動したとかこのセリフが良かったみたいな感想はあんまり書いていないんですよね。 極端なハナシ、取り上げたマンガが面白かったのつまらなかったのかも書いていません。 でもマンガを考察するという文化?もありますので、追悼の意味もこめて吉野朔実さんの作品について考えてみます。

 正直いうと吉野朔実さんの作品で心に残ったとか影響を受けたっていうのはあんまりありませんでした。 作品は読んだタイミングが前後してますがブーケ時代の緑柄の単行本から小学館の短編までほぼ読んできました。 独自な考え方を持つエッジの効いたキャラと破綻しないストーリー構成、オチの付け方まで当時最も上手なマンガ家だと思っていました。 一般にマンガの多くは作者のうちなる妄想の具現化が作風になるモンです。 編集会議でストーリーを決めるような某少年誌モンや、原作やメディアに描かされているような作品からは作者の色はあんまり感じられません。
マンガの王道というのは「主人公が成長を見守る」という少年ジャンプ的な部分だと思います。 それはサクセスストーリーや長編大作かに関係なく、読者が主人公に寄り添って読むというイメージのほうが当たっていますね。 だからキャラの性格や家族構成、容姿などが重要なんです。 しかし吉野朔実さんの得意とする短編読み切り連作は読者にキャラへの愛着を求めない作風でした。 短編読み切り連作というのは少女マンガ特有の掲載方法で、50ページ読み切り前後編とかあんまり少年誌じゃやっていません。 ほかの少女マンガ家だとその短編の中でも主人公が愛されるように努力をするんですが、吉野朔実さんはその努力をまったくしないタイプのマンガ家でした。 絵が上手で可愛い女の子もいいオンナもいいオトコも描き放題なのに、キャラで人気が出ることを拒み続けてるように思えるくらいです。 同じイメージだったマンガ家が西 炯子さんでした。 西 炯子さんと吉野朔実さんの共通点はマンガを見下しているっていうところです。 それはマンガに対して真剣でないということではなく、自分の作品は普通のマンガとは違うんだよっていう気位の高さが感じられるんです。 それこそ「陸奥A子とは違うんだよA子とは」ってことでしょう。 そういえば最初は西 炯子さんの炯の字も読めませんでしたね。自分のアタマが悪かったってだけですが。
そーいう気位の高い感じがマンガファンにとっては考察のしがいがあるマンガ家というようになるんでしょう。 気位の高いマンガを分析できる気位の高いワタシっていうことです。

 物語の作り方はエピソードを決めてオチを考えてから、そのシナリオに必要なキャラを考えるというやり方と、まずキャラを考えてからキャラがどう動くかを考える方法があると思います。 どっちが正しいかはないんですが、一般にマンガというジャンルはキャラに依存するところが大きいのでキャラ作りはとくに重要です。 俯瞰で進むようなドラマではキャラの個性よりも寄り客観的でクールなまなざしのほうが内容に合っていたりしますが、それはむしろ映画など映像のジャンルの得意な手法でしょう。 以前も書きましたがマンガはドキュメンタリーに向かないジャンルです。 それは読者がキャラに寄り添って読んでしまうからです。
吉野朔実さんの物語の作り方はエピソードありきで、そのエピソードに合うキャラを用意するっていう感じです。 作品の仕立て方がまるで舞台劇のような印象でした。 劇中に登場するキャストは舞台の上にだけ存在し、幕前や終演後には役者に戻るっていう感じです。 吉野朔実作品は舞台劇をマンガで表現してるっていうイメージがしっくりきます。 それゆえ作品が浮き世離れしてるっていうか架空のモノガタリっていう風に思えちゃうんですよ。 そこで登場人物が哲学的なセリフをいくら言っても、言葉の遊びって印象しか残らないから琴線に触れないんです。 では、どーいう人の琴線にふれるのか?っていえば理屈が大好きな人たちでしょう(笑)おきまりの生と性と死と自己。 そーいうことがテーマの作品が高尚と思うマンガファンにとっては、吉野朔実作品を考察するコトによって低俗なマンガを見下せて気分がいいんでしょう。 自分はマンガの高尚さには興味がないのですが、吉野朔実さんのマンガの面白さは普通にファンでした。 でもこーいう作品は誰に向いてるのかな?って考えたら、小説を乱読するタイプがファンになるんじゃないかな。 そうすると作者自身も読書家だったから合点がいきますよね。 読書家の方々も気位が高そうですし・・・

 

 自分が吉野朔実作品でコレだっていうマンガを上げるとしたら「瞳子」がお気に入りです。 先程の勝手に引用したブログの方は初めて読んだ吉野朔実さんのマンガは瞳子だったって書いていました。
瞳子は吉野朔実さんが青年誌で発表した最初の作品です。 少年マンガの読者が初めて吉野朔実を経験したら自分が子供のころにうけたカルチャーショックほどではないにしても異質なマンガって感じでしょう。 そこは初の青年誌だから読者に違和感を与えないように瞳子ではソレまでの舞台劇っぽさをやめて、瞳子という主人公キャラに寄り添った描き方をしています。 それまでの作風のモラトリアムな格好よさは通用しないって判ってるような作品でした。 自殺した友達の父親について家族に「自分で死ぬ権利だってあっても良いんじゃないの?」っていういかにも吉野朔実さん的な講釈をたれる主人公が、お父さんにそーいうことを言うもんじゃないってたしなめるシーンなど。 筧利夫さんが屁理屈のようなセリフをまくし立てるのが好きな人には吉野朔実節もいいんですが、青年誌の読者はぶ~けからのたたき上げのマンガファンではありません。 モラトリアムがもっとも嫌う常識を語るお母さんや話(理屈)が通じないお姉さんなど、吉野朔実さんが過去の作品で描いてきたような“価値観の合わない”タイプのキャラに主人公がいいまかされちゃうようなマンガです。 主人公の価値観が通用しない“世間”の中に物語があるからこそ、思うようにいかない主人公に寄り添って読むことが出来るんだと思われます。
この「瞳子」と冬目 景さんの「ももんち」が自分の中の2大妹マンガです。 冬目っていう名前も最初読み方がわからなかったですね。

 読者を見下したようなマンガを描いていた西 炯子さんは、しっかりキャラで読者を引きつけられる少女マンガを描くようになってベストセラーマンガ家になっています。 1ページ丸々スミ入れされていた吉田秋生さんも、今ではホームドラマが映画化されるほどです。 でも吉野朔実さんは瞳子以降も読者に寄り添うことなく吉野朔実作品を発表し続けました。 それは吉野作美さんが読者に寄り添うつもりは更々ないっていうことでしょう。 終始、吉野朔実さんは自身をマンガ家ではなくて作家という位置づけだったのかもしれません。
そういう自分も吉野作美さんのファンなので単行本化された作品は一通り読んできましたが、最新作の「period」で初めて読むのをやめました。 それは吉野朔実さんが自身の集大成のように選んだかのような「暴力(理不尽)に向き合う兄弟」がテーマだったから。 それと小学館のIKKIコミックの編集方針に共感しなかった(あんまり好きじゃなかった)からです。
さすがに読者自身がモラトリアムを卒業しちゃうと、性についてとか死についてとかいった作品を読むのがキツくなっちゃいます。 死の意味とか暴力の意味とか考える作品は心理学や社会人類学をかじってるようで賢そうなんですが、自分が求めるマンガの面白さは人間の本質ではなくて人間の物語の本質です。
吉田秋生さんの作品でも多くのキャラが実際に死んでいますが、ストーリーの中で「何で死んじゃいけないの?」的なセリフを書きません。 思えば「夢見るころを過ぎても」でぷらぷらしていた女の子たちを描いていたころからモラトリアムとの決別を宣言してたんじゃないかな? 今、吉田秋生さんが描いてるのは配偶者や隣人の死といった日常の中の死別との向き合い方です。
きっと吉野朔実ワールド全開だろう新連載の「period」は自分の好みからもっとも離れた作品だったでしょうから。 それがまさか遺作になるとは思わなかったんですけどね。 本当の遺作は月刊フラワーズに掲載された「いつか緑の花束に」なんですが、この作品は読んでみたいですね。

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