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2019-10

少女趣味の王道 - 2014.05.10 Sat

小沢真理さんの「 花物語 」です。


  ロウソクの灯に輝く 十字架をみつめて 白い指を組みながら うつむいていた友

  その美しい横顔 姉のように慕い  いつまでも変わらずにと 願った幸せ

                               ペギー葉山 「 学生時代 」

 古~い名曲の一節ですが、今回の「 花物語 」はそーいう物語です。 「 讃美歌を歌いながら清い死を夢みた、何のよそおいもせずに口数も少なく 」というヤバい歌詞もあります。 とても良い曲なので聴いたことがない方はネットで探してみて下さい。 この曲も古いんですが今回取り上げる「 花物語 」はもっと古いお話です。
「 花物語 」は吉屋信子さんの原作小説のコミカライズです。 最近アニメでやっている<物語>シリーズのひとつではありません。 あっちはハヤリのラノベ系アニメ作品ですが、こっちは元祖少女小説です。 古屋信子さんが大正5年から「 少女画報 」に連載された短編連作小説です。 日本の同性愛の歴史の中で初期の最重要人物で、自らも千代さんというパートナーを公言していました。 同性愛を表すエスという言葉も、この作品から生まれた言葉らしいです。 エスといってもサディストのエスではありません。 シスターのエスです。 いわゆる「 お姉様・・・」ってやつです。 女子高生が「 私の彼氏、ド S だから・・・」って言い方をしますけど、どんなプレイしてるんだよ?って感じですよね。 テレビで普通に「 ロリータ 」って言ってるのを聞いた時も衝撃的でした。 
吉屋信子さんは大正時代の文学者で与謝野晶子さんや平塚らいてうさんなどと同世代のフェミニストです。 自分は密かにこの時代のフェミニンブームが研究対象?です。 いつかは伊藤野枝が主役で平塚らいてうとの百合モノを狙っています。 そんなストーリーは誰も興味が無いだろうけどね。 誰だよ伊藤野枝って?

 「 少女画報 」は「 少女の友 」と共に初期の少女誌をリードしていました。 当時、人気だった中原淳一さんや竹久夢二さんの挿絵と相まって乙女の心を掴んでました。 やってることは今のコバルト文庫と同じ手法です。 昭和になるとこれらの少女誌は文芸誌からマンガ誌に変わっていきました。 このあたりのお話は、村上もとかさんの「 フイチン再見 」で扱っている題材です。 戦前の少女マンガの世界を知ることが出来る佳作です。
河出文庫版の「 花物語 」のキャッチには『 少女たちのほのかな恋と友情を描いた、少女小説の金字塔 』とあります。 友情はもとより“ほのかな恋”とは男女間のソレではありません。 女学校や寄宿舎などで女教師や先輩、同級生への友愛や思慕など、あまりハードな性愛ではない恋愛感情をさします。 昨今の百合ブームでは同性同士のセックスを肯定するハードな作品と、女の子同士がじゃれ合うだけの作品に二分化されちゃっています。 前者は同性愛について真摯に扱いすぎて物語から社会性が失われちゃうパターン。 後者は女の子を子犬程度にしか考えていないパターン。 ちゃんとした百合作品が少ない原因は“百合作品を男の子向けに作ろうとするから”かもしれません。 そもそも百合アニメや百合マンガを女の人は観てるんでしょうか?

  

 同性愛を語る作品の難しいところは現実の性的マイノリティーやトランスジェンダーの人たちと、一般のイメージの中に存在する架空の同性愛が全くの別物だからです。 メディアはレズビアンを好奇の目で取り上げるし、当事者のレズビアンたちは権利の主張など“社会の常識や通念”との戦いしか聞こえてきません。 多くの作品も「 私は何で同姓を愛してしまうんだろう?」っていうお題目から一向に抜けきらない印象です。 男女間の恋愛もので「私は何で異性に惹かれるのだろう?」っていうテーマはありません。 恋愛ドラマで重要なのは男×女でも男×男でも女×女でも、そのカップルの人間関係であって組み合わせの是非ではありません。 それは恋愛ドラマではなくて哲学の領分でしょう。 恋愛で哲学を語るという作家もいますが、そーいう恋愛ものはろくなモンじゃありません。
「 花物語 」の構成は寄宿舎や女学校など「 女子しかいない環境で素敵な方に出会ってしまった 」というくだりです。 「 私は女性しか愛せないと悩んでいる主人公が、素敵な女性と出会ってしまった 」と似ていますが違う意味合いですねよね。 別にマイノリティーに悩むことも社会に叱責されることもありません。 可愛いモノ、美しいモノ、愛おしいモノ、憧れるモノ、それらに出会うきっかけが女子校であり、女子校だから恋愛対象が同性になったようです。 
なぜエスがブームになったのが大正時代なのか?ということですが、憶測で考えれば教育制度が変わって女子も教育を受けられるようになったこと。 同世代の女子が女学校に集められたので同然ながらすてきな女性との接点ができたこと。 時代は根強い男性主体の封建社会なので男性には支配者のイメージが強く、ロマンティックな対象にはなりにくい。 こう考えると親の決めた結婚相手よりも“素敵なお姉様”に心を奪われるのは違和感がありません。 なにもお姉様だけが憧れの対象ってことはなく、素敵な書生さんでも素敵な番頭さんでもいいんです。 素敵ならば!

 吉屋信子さんは自身も同性愛者なので作風にも反映されているのは当然です。 でも彼女がマイノリティーの活動家だったら、こーいう作風にはならなかったと思います。 それこそ東小雪たちのようなメッセージ性の強い小説になっちゃうでしょう。 古屋信子さんが書きたかったのは純粋なる少女小説です。 少女小説とは少女を書く小説ではなくて、少女のために書く小説のことです。 作品の多くは悲恋や別離で終わるストーリーです。 死別や心中なども多いようです。 これらは「 美しい少女時代には必ず終わりが来る 」というメッセージではなく、読者のカタルシスを満足させるための演出だと思います。 それだけ当時の読者(少女たち)は抑圧されていたんでしょうね。 
「 花物語 」は何度も再版されていて河出文庫で購入可能です。 教科書に載るような作家でもない大正時代の少女小説が何度も再版されているのは、それだけ多くの人々に普遍的に訴えるものがあるのでしょう。 この普遍的なモノこそが「 少女趣味 」そのものです。 
戦後の少女マンガの主流になる王子様もお兄様もみんな少女趣味の一環に入っています。 継母モノとか出生の不遇なども少女のカタルシスを満足察せルアイテムでした。 そして少女マンガ黎明期には同性愛を題材にした作品も多く発表されました。 まだレズではなくてエスだった頃です。 その後、少女マンガはしらいしあいさんの登場によって同棲、セックス、妊娠がストーリーの中心になっていきました。 そしてケータイ、合コン、元カレなど「 慕情はどこに行った?」って感じですね。 少女小説の王道を引き継いでいたはずのコバルト文庫もBLとファンタジーばっかりになっちゃってます。 でも「 花物語 」が再版され続けているのは少女趣味を求める声は途絶えていない証明だと思います。

 「 花物語 」の文体は大正時代では最先端のライトノベルだったのかもしれませんが、現代人にはレトロな文体に手こずると思われます。 「 大正時代のラノベってこうだったんだな・・・」って想いをはせるのもいいけど、そんな文章は面倒くさいって方には小沢真理さんがコミカライズしたマンガ版「 花物語 」がお薦めです。 小沢真理さんは少女マンガの中堅プレイヤーで「 世界でいちばん優しい音楽 」や「 ニコニコ日記 」を出しています。 今は「 銀のスプーン 」という農業高校のマンガに似たタイトルのファミリーマンガを連載中です。 ファンタジーから家族問題まで守備範囲が広いマンガ家さんです。 「 花物語 」がコミカライズされたのは今回が初めてらしいのですが、成功の要因はすべて小沢真理さんがマンガ化したことによると思います。 原作の読者には中原淳一さんの挿絵というイメージが固定してるのですが、小沢真理バージョンもまったく違和感のない作画で「 花物語 」の世界を作っています。 それは小沢真理さんのマンガがどこか少女趣味を引きずっている“昔ながらの少女マンガ”って感じだからかもしれません。 それは家系とか背脂豚骨とか魚介だしとかのへんてこな味付けのラーメン屋ばっかりの中で、鶏ガラ醤油味の正統派のラーメン屋のような感じです。 
「 花物語 」は全部で54編の短編が作られましたがマンガ版では12編が収められました。 「 えっ?それで終わりなの?」って思うオチや納得し難い展開の作品もありますが、手っ取り早く吉屋信子ワールドを楽しむなら原作本よりもマンガ版を読むほうをオススメします。 お爺さん先生に憧れる女学生とか「 銀のスプーン 」の斉木に似た女学生の話など、少女趣味として、どーなんだろう?って気がする作品も含まれていますけどね。 

「 私がこんなに可愛い薫さんのお姉様にならないでどうしましょう・・・」
お姉様は その胸に抱きしめて
額の髪の上に やわらかなくちづけを くださいました
なんという しあわせな日々の はじまりでしょう

どんだけお姉様なんだよ!って感じですが、まさに少女趣味の世界です。 少女趣味でない人や少女でない人には理解しにくいか嫌悪感があることでしょう。 男性が百合マンガに期待するようなセクシャルな表現もありません。 人権派を奮い立たせる主張もありません。 ただ登場人物の少女たちはすべて凜としています。 たぶん吉屋信子さん自身も凜とした文学者で、少女たちにも毅然と生きてほしいというメッセージだったのかもしれません。 面白いのは昭和初期の少女誌がマンガ誌に変わっていく中で、少女が男子に媚びる内容ばかりになったと嘆いていたそうです。 いつの時代でも悩みは同じなんですね。

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● COMMENT ●

初めまして^^私は冒頭の歌で「恋愛感覚」を起動させられました。私は、つまり男でありながら「百合」の恋愛感情を持っているのです。偶然、今度ブログに掲載予定ですが・・・(笑)

sado jo さん、いらっしゃいませ。

冒頭の「 青春時代 」は恋愛感情よりも青春の日々をセンチメンタルに振り返るっていう主旨の曲です。
もしも、ヘンなスイッチが入ってしまったのなら何よりです。

百合モノを作る時には、読む側の都合を考えることが一般の恋愛モノを考える時以上に重要です。
誰に向けて書くのか?何を伝えるのか? を明確にしないと、ひとりよがりになっちゃうから・・・


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