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2019-10

可愛い設定の使い方 - 2013.10.04 Fri

KUJIRA さんの「てのひらのパン」全2巻です。

 このマンガのタイトルの「てのひらのパン」は劇中に出てくる絵本のタイトルです。 主人公の胡奈(こな)の姉の形見の絵本です。 
この日記ではマンガのことについてアレコレ書いていますが、自分は絵本に関してはさっぱり善し悪しがわかりません。 たぶん幼児期から現在までの中で絵本を読んで面白かったり感動したことが一度もなかったからでしょう。 なにしろ人生で自分が読んだ絵本は丈夫なボール紙でできていた「桃太郎」と「おばけちゃん」と「ぼくを探しに」だけです。 「桃太郎」は家にあったので買ってもらったんだと思います。 ほかに「かぐや姫」とかあったのかもしれませんが記憶にありません。 「おばけちゃん」は虹色のジュースを飲むエピソードだけ覚えていますが、もしかしたら全然違う本だったかもしれません。 幼稚園でもっと読んでいるハズと思われますが、幼稚園ではそーいう子供向けな本を全く読まなかった記憶があります。 その頃はもう「ドラえもん」をクリアして「天才バカボン」に挑戦していましたから。 「ぼくを探しに」は高校生のころ、なにか思うところがあって唯一自分が買った絵本です。 キャラクターを突きつめれば「丸でいい」という哲学的な絵本でした。 そーいうテーマじゃないんでしょうけどね。 その後、気になっていた女の子が保母さん志望で「ぼくを探しに」を読んでいたことが判明、自分も持っているとアピールしてポイントを稼ぎました。 なんでも読んでおくことですね。
最近納得したのは「地獄」というタイトルの絵本です。 読み聞かすと子供が悪さをしなくなるというアレですね。 

 今回、劇中に出てくる絵本の「てのひらのパン」は兄弟のパン屋さんのお話です。 絵本のストーリーは「弟がパンを焼いて兄が売るのですが、兄が売り上げ重視のためが過労で倒れてしまう。 代わりに兄がパンを焼くのですがさっぱり売れず、売れ残りを川へ捨ててしまい家に戻ったら弟が死んでいました。」という感じです。 この絵本はKUJIRAさんのオリジナルで、マンガの1巻目の冒頭にこの絵本が出てきます。 劇中では大ベストセラー絵本で主人公が大人になった今でも大事にしている絵本という設定です。 前記の通り自分には絵本の善し悪しをジャッジする基準を持っていません。 正直いってマンガの姉妹のようい「おいおい泣いた」ってほどのお話かなぁ?って思います。 自分の子供の頃から「人が死ぬ」お話では泣いたことがありません。 そーいうことが悲しいわけじゃないってことは自覚していました。 「何々は死んでしまいました」っていう展開の雑な感じがイヤだったんでしょう。 大人になった今でも、人が死ぬ展開には厳しい評価をしています。 
多少は飲み込めませんが、この絵本が重要なカギを握るマンガにしたかったみたいです。 絵本のシナリオを劇中で上手く使えたのでしょうか?

てのひらのパン

 マンガの世界では作者が作品中に出てくる絵本を“名作絵本”と設定すれば、劇中では名作ということになります。 劇中にでてくるパンが“美味しいパン”という設定なら胡奈が焼くパンは美味しいパンですね。 読者は作者の設定を疑わずに読むというのがマンガの第一のルールです。 作画がちょっとザンネンだったとしても、ストーリーの中で美人という設定ならばそう思い込んで読むのがセオリーでしょう。 
この作品に出てくる“絵本”や“パン屋さん”は、少女マンガにおける「可愛いモノ」というジャンルになります。 “小学生の甥っこと二人暮らし”とか“絵が描けなくなった美形の画家”など少女マンガの萌え要素も満載です。 “死んだ姉の旦那にことが好き”とかは王道のストーリーです。 少女マンガの読者が「大好きなモノ」をいっぱい集めたような設定ですね。 単行本の装丁もファンシーで「ひとりで美味しいパン屋さんを切り盛りするマンガ」っていう印象です。 KUJIRAさんのマンガは読んだり読まなかったりですが、今回はモロ表紙買いでした。 
しかし実際はそんなに可愛いらしいお話ではありませんでした。 企画の段階では上記のようにキャッチな設定をちりばめて「素敵なパン屋さん物語」を描きたかったのかもしれません。 ここでいう素敵とは女性誌の「素敵なナントカ・・・」で使われるような素敵です。 しかし胡奈が始めたパン屋さんは商店街にあるごく普通の“ありきたりなパン屋さん”です。 「街で美味しいと評判のお店」というわけでも「可愛いお店」でもありません。 KUJIRAさんがこの作品を描くにあたり、実際に地元のパン屋さんを取材したそうです。 売り場と調理場の位置関係などに取材の成果は出ていますが、店を可愛く見せるつもりはなかったようです。 ときどきマンガに妙な現実感を求める方がいます。 世の中の商店街のパン屋さんが全て可愛いくてお洒落な店舗ではありません。 でもマンガって現実感よりも魅力が優先されるべきじゃないのかな? オープニングで出てくる「パンの店 コナ」の朝一番のパン焼きから開店までのシーンに8ページを費やしています。 そこには取材して描いたリアリティーはあるんですが魅力的な店とは思えませんでした。 それこそ普通のパン屋さん。 べつに可愛いお店じゃなくてもいいのでしょうが、せっかくの「パン屋さん設定」なんだから・・・ 

 主人公の胡奈は絵本のパンに憧れてパン職人になり、独立して自分の店を始めました。 なんと、この「パンの店コナ」で売っている胡奈が作ったパンが、あんまり美味しそうじゃないんですよね。 とくにマズそうというわけでもないのですが、美味しいという評判もありません。 さっきも書いたようにマンガだから作者が「地元では美味しいと評判」って劇中で描けば、胡奈の作るパンは美味しいっていう設定にないます。 さらに「居候のイケメン画家を店番に雇ったら売り上げが倍増した」っていうストーリーです。 胡奈のパンが美味しいから売れているんじゃないような演出です。 街のパン屋さんなんてそんなモンっていうリアリティーなのかもしれません。 でも、みんなが「美味しい、美味しい」ってセリフを言えば読者は食べたわけでもないのに「パンの店コナ」は美味しいって認識するんですけどね。 
最近読んだマンガで美味しいパン屋さんを開くお話がありました。 野崎ふみこさんの「ベーグル食べない?」です。 5歳のころ、パン屋さんになることを決心した主人公が40歳の主婦ながらベーグル・カフェを始めるお話です。 こっちの主人公はパン屋になるために学校を出て、反対する旦那に保証人になってもらい用意周到に始めるんですが、繁盛したり客足が停まったりの日々を描いています。 
野崎ふみこさんのスゴいところは食べ物が出てくるマンガでは徹底して美味しそうに描写するところです。 そーいう説得力こそがマンガ家の力量だと思います。
「パン屋さんのマンガだからパンが美味しくなきゃダメなのか?」ってコトですが、逆に主人公のパンは美味しくないって評判でもマンガ的には面白いです。 問題なのは読者が美味しそうともマズそうとも思わないことです。 パンが出てくるマンガなのにパンに関心が湧かないのはダメでしょう。 「パンじゃなくて絵本がメインなんだ」っていうのなら、その絵本は感動するのか? 「いやいや人間関係のドラマがテーマだからパンは重要じゃない」ってことなら、主人公の胡奈は可愛いのか? 相手役の黒川さんはイイ男なのか?

 最後にこのマンガの主人公の胡奈は可愛いのか?という疑問が出てきました。 この主人公は2巻目の耕太の「親子スケッチ教室(写生遠足)」のエピソードまで笑ったシーンがありません。 笑わない少女マンガについては、以前香魚子さんの「魔法使いの心友」で取り上げました。 
ストーリーの都合で笑わないのはわからなくもないのですが、笑わない女の子で読者を魅了するのはかなり高度な技術が必要です。 心の傷が大好きな作家や読者には「笑顔を失った」っていうヒロイズムで満足なのでしょうけど、それは「笑うと可愛いのに」って読者が思うからこその演出です。 「てのひらのパン」の1巻目は胡奈が黒川さんにツンケンしてるだけで終わっちゃいます。 客商売だから「お客にニコニコ」で「黒川さんにツリ目」でもいいんです。  お客にニコニコの部分で「いつか黒川さんにも微笑むかも」って読者が思うんだから。
昔のマンガだったら「なんだかんだあっても結局はいい話で終わるんだから」っていうお約束やセオリーがあったもんです。 でも最近のマンガは報われないまま話がブチ切れるケースも多々あります。 作者がクールなのかセオリーが嫌いなのか、そーいう笑えない主人公のままで終わるお話が現実的だと思ってるのかな?
報われない思いや、心に闇をもつキャラを可愛いキャラのままで描く天才マンガ家が羽海野チカさんでしょう。 今、将棋のマンガの9巻目が出ています。 羽海野チカさんのの場合、食べ物もお年寄りもすべて可愛く描けるんですけどね。
それに引き替えKUJIRAさんの場合は、読者が主要キャラに対する愛着をモテるのかが疑問です。 ヒロインで主人公の胡奈が可愛いという演出があまりありません。 相手役の黒川さんも美形という設定ですが、ナイスなオトコとはほど遠い設定です。 二人とも過去に引きずるモノがあるっていうストーリーですが、それはキャラの魅力を犠牲にしてまでやらなきゃいけないことではありません。 キャラに魅力がないというのは、「そのキャラと友だちになりたいって思えるか?」「恋人にしたいって思えるか?」で判断できます。 逆に言えば友だちにしたくなるようなキャラを描けば、読者の心を掴むのはたやすいんです。 マンガの感情移入とはそーいう原理で作られています。

 では、どーして感情移入しにくいマンガになってしまったのでしょうか? それはこのマンガの構成に問題が隠れているようです。 そのことについては、次回の日記で書きたいと思います。

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