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2019-10

笑わない少女マンガ - 2013.06.01 Sat

香魚子さんの「魔法使いの心友」です。

 香魚子(あゆこと読む)さんは、2005年デビューの少女漫画家で、別冊マーガレットなどで活躍しています。 今回取り上げる「魔法使いの心友」は原作つきの作品で、原作は柚木麻子さんという小説家で彼女も初めてのマンガ原作のようです。 香魚子さんのほうはコバルト文庫の「伯爵と妖精」という谷瑞恵さんの小説をコミカライズしているのでお手のモノだと思います。 「伯爵と妖精」が代表作?なのかもしれませんが、オリジナル作品は短編集3冊と「シトラス」という連載モノが2巻完結で出ています。 キャラクターを作って長期連載というよりも単発のお話にそのつどキャラクターを用意する作り方です。 連載作品だった「シトラス」でも4人の田舎の中学生の群像劇で、キャラクターマンガというよりも短編マンガを並べて長編にしたって感じでした。
香魚子さんのマンガのテーマは常に“本当の友情”です。 恋愛マンガの形式をとっていたり、幽霊とか未来とか「短編マンガのセオリー」な設定の作品もありますが、基本は中高校生の女の子がクラスメートとどう折り合いをつけるか?みたいなお話です。 単行本の表紙を見れば、絵のタッチは綺麗なのですが表情が薄い印象です。 「僕等がいた」の小畑友紀さんのタッチから幼さを抜いた風です。 表紙のキャラの表情はそのマンガのイメージを表していますので、香魚子さんはニコニコした女の子のマンガを描く気が毛頭ないことを意味しています。

 学園マンガというジャンルは、読む人がどの時代の学生だったかによって内容が変わってきます。 往年の青春ドラマの世代には「ばんから、スポーツ、下駄」といったイメージ。 金八先生世代は「校内暴力、熱血指導、学級会」とか。 バブル期は「おしゃれ、クラブ、性体験」など。 どの時代で学生だったかによって学園マンガの作り方が全然違います。 それでは「ゆとり世代は?」「現在の学校では?」って考えると、実はサッパリ分かんないのが実情です。 よく給食が昔と違う(メニューや作法が)という話題があります。 給食ですらこんなに違和感があるのに、今の生徒が教室で何を見ているのかなんて卒業しちゃった大人たちには知るよしもありませんよね。 さしずめ「ケータイ、いじめ、格差」って感じかな?
山のように学園マンガは存在しますが、多くの学園恋愛マンガは恋愛マンガの設定が学校というだけです。 あまり目立たないタイプの主人公が学園一のプレイボーイの先輩に惚れられるとか。 読者が学生ということで便宜上は学園ドラマですが、「プレイボーイの先輩って何だよ!」ってつっこみどころ満載です。 前回の日記でファンタジー作品の自分設定が苦手って書きましたが、こーいう恋愛マンガのアホ設定が嫌いな人も多いと思います。 ただ昔から学園マンガを読んできても根本的な印象が変わらないのは、マンガ家が現実の学校を反映させていないで「今まで通りのマンガとして完成した学園のイメージを共有しているからでしょう。 給食がこんなに変わったって報道されてるのにマンガの中の学校が全く変わらないのはおかしいです。 

 香魚子さんは実年齢は不明ながら比較的最近まで学校に通っていたと思われます。 もっと現役高校生のマンガ家とかもいますが、キャリア的に参考になりにくいです。 前記で作品のテーマは友情と書きましたが、青春謳歌とか仲良しグループとは無縁なマンガです。 むしろ「クラスメートや友だちだと思ってる人も本当は私のことなんかいらないって思っている」というタイプの主人公のお話ばっかりです。 まわりの人も自分も話を合わせているだけで、ぺらぺらな関係なんだから“本当の友だちなんかじゃない”というテーマです。 その上で本当の友だちを求めて苦悩するようなマンガです。 いじめで自殺とかもシチュエーションとして取り入れる場合がありますが、社会派マンガというより幽霊モノのネタとしての使われ方だっったりします。
香魚子さんの作品の主人公が一番意識していることは「空気を読むこと」です。 教室内でもっとも必要なスキルは学力でも運動能力でもなくて空気を読む能力らしいです。 キャラが心の底から笑うシーンは皆無で、主人公の笑顔も「引きつったお愛想笑い」しかありません。 面白くも楽しくもないのに“空気を読んで”お愛想しているだけです。 まるで今の教室には本音で語ることも無防備に笑うことも“ありえない”といってるかのようです。 そういうクールなまなざしが香魚子さんの作風であり人気の部分なんでしょう。 いじめの加害者を糾弾するのでも被害者に寄り添うのでもなく「空気を読まないからいじめられるんだよ」という立ち位置です。
教室では優等生でも劣等生でも目立つことはターゲットになる危険があります。 子供たちが心がけていることは「みんなと同じに」とか「目立たず人並みに」という生き方のようです。 そこには縮こまっちゃった子供社会の縮図が見えます。 香魚子さんがそーいう学校の歪みを社会に訴える目的で描いてるというよりも、彼女が見てきた学校生活が本当にそーいう雰囲気だったんだと思います。

 最近復活してきた別マの少女マンガ家さんに藤村真理さんがいます。 彼女はややこしい構成を操るひねった人物像の少女マンガが得意でした。 でも少女マンガの時流がライトポップになっちゃったので「おバカ少女路線」に切り替えたら、本当にバカが出てくるマンガに勝てなかったようです。 でも藤村さんが復活できたきっかけが「少年少女学級団」につながる小学生路線です。 たぶん自分の子供が小学生になっってリアルな学校のディテールが手に入ったんでしょう。(憶測ですが) 頭がいい作者が考えたおバカな高校生よりも「リアル・バカ」な現役小学生を描くほうが簡単だと気づいたのかも。 しかし、藤村さんは生徒として今の教室を体験しているワケじゃありません。 同じように学校や教育関係者、評論家、先生ですら生徒の立場で学校を見ているワケではありません。 最近の学校を一番正確に伝えられるのは最近卒業した方々です。 「少年少女学級団」はマンガを読んでいてもガキんちょたちに感情移入がしやすいです。 それは藤村さんの考える物語の価値観がとうに卒業しちゃっている大人の価値観で描かれているからでしょう。 「最近の小学生を見た大人が描いたマンガ」っていう感じですね。
対する香魚子さんの作品は学生時代の窮屈さがひしひしと伝わってくるマンガです。 心から笑えない主人公たちは物語のラストになっても笑えないまま終わります。 「こんな自分から変わりたい」とか「本当の友だちを作りたい」とかいうテーマなのに、さわやかに終わるお話があんまりありません。 それは作者自身が「世の中(学園生活)なんて本当はこんなモンさ」というスタンスだからに思えてしまいます。 「既製のハッピーエンドなんか嘘っぱちだよ」って聞こえてきます。 でも「面白いお話」ってそっちじゃないはずです。 可愛いらしい画風とニヒルなストーリーのギャップが香魚子さんの魅力なのかもしれません。 香魚子さんの世界ができあがってるんですが、小手先な感じで投稿マンガの模範例を集めたって印象です。 「この人の短編集にあるようなお話を投稿すれば、どの雑誌でも入選しますよ」みたいな。 そんなこんなで「魔法使いの心友」の話になります。  

魔法使いの心友

 この作品の主人公は今までの香魚子マンガの集大成のような空気を読むことに命を賭けている女の子です。 ある日、謎の転校生(当然、魔法使い)が現れて主人公と親しくなるんですが、空気を読まない魔法使いは主人公の性格を一刀両断。 原作の柚木麻子さんは普通のガールズ青春小説化なので、香魚子さんのニヒルさもストイックさも知ったこっちゃないようです。 お話作りのセオリー通りに魔法使いのキャラを立て、陰湿ないじめっ子?どもにすぱーんと啖呵をきってくれます。 香魚子さんのマンガで初めて爽快なキャラが登場したと思います。 元々はこーいうコメディーっぽさのあるお話に向いた絵柄なのに心情描写にこだわりすぎていた印象です。 今までの香魚子さんのマンガは、迷っている若者を描写してもその若者がどーするべきなのかは描かずにいた感じです。 笑わないキャラが笑うまでを描くのがマンガ家の責任でしょう。 短編マンガが多いのは、妙に短編が上手ということもありそうですが、主人公を描き切るようなマンガ家に見えないからなんじゃないかな? 今までの単行本の表紙のイラストと、「魔法使いの心友」の表紙のイラストは明らかに違います。 なによりも自分がしりうる中では香魚子さんは、初めてこの作品のラストで心から笑う主人公の絵を描きました。 主人公の笑顔は少女マンガには絶対に必要な要素です。 テンプレとかパターンとかいうけれども、マンガの描き方にはそんなこと以前の基本中の基本があります。 心から笑えない人がどうして魅力的なキャラになるのでしょう? ましてや「魅力的なキャラのマンガが描きたいワケじゃない」という理屈も存在しません。 アマチュアに多い屁理屈ですが、プロのマンガ家は魅力的なキャラを描かなきゃ消えていってしまいます。 今回の原作つき作品では柚木さんのおかげでそーいう問題が浮き彫りになったのはよかったと思います。

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● COMMENT ●

はじめまして

漫画を描いているとのこと
箒に乗った少女二人の絵も当然自作だと思います
さわやかな作風がいいですね

魔女繋がりで

そうそう、話は変わりますが、魔女の宅急便の実写版が公開されるそうですね。ちょっと楽しみ・・です♪

スイーツマンさん、いらっしゃいませ。

お越しいただきましてありがとうございます。
マンガはあんまり描けていません・・・(泣)
もうちょっと、頑張らないとって思ってます。

ゆうたかさん、いらっしゃいませ。

実写版の「魔女お宅急便」ですか・・・
できれば日本人の俳優じゃなくて、欧州のブルネットの女の子がいいですね。
南フランスあたりでオールロケで。
キキがお母さんになってる頃のお話で、子供が主人公なら宮崎駿さんも文句が言えないでしょう。
どーせ文句言うに決まってるんだからね。


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