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2020-10

ハシゴを外すマンガ - 2020.10.31 Sat

麻生みことさんの「大正ロマンポルノ」です。

 前回の記事から投稿間隔が思いっきり空いちゃいました。本来ならば深海 紺さんの「春とみどり」を題材にした記事をアップするよていでした。実際に書いたのですが、どーにもこーにも納得できる文章になりませんでした。何しろ単行本の裏表紙に『センシティブ同居譚』とか『せつない同居ストーリー』っていうキャッチが書いてあるほどのセンシティブな作品です。
本当は「春とみどり」のその2、その3まで書いたのですが、その文章が「自分が中のコンプライアンスに抵触していないか?」とか「特定の人にとっては不快な文章になっていないか?」といった不安がよぎりました。そもそもブログなんてものは「自分のブログで書けや・・・」っていうフレーズがあるくらい無責任なジャンルです。しかし作品を批評することと批難することは別です。ストーリーの中の登場人物を批評することと、登場人物のような人たちを批判することも別なことです。
端的にいえば「発達障害のキャラとセンシティブなキャラの違い」についてでした。作品全体を発達障害として捉えると非常に説明しやすいのですが、それこそ実際に発達障害の方や関係者に対して理解される文章が書けているのか?という自問もあります。
正直、記事は書いたのですが正誤性のジャッジが自分でできませんでした。それほど迷うのなら取りあえずボツにするのが賢明だろうという判断で、今回書いた記事は公開しませんでした。そのために9月は記事が飛んじゃったのですが、一応は下調べとか裏取り的なことをしながら記事にしているので書き始めると他のテーマにならないので・・・
今年は大林宣彦さんの追悼記事を書いた時も、思うところがあってボツにしました。大林監督には生前並々ならぬ思いがあったのが裏目にでてしまいました。ちょっと追悼に書くような内容ではなくなってしまったので、喪が明けてからって思っていたら「この意見って世間に伝わるか?」という自問からボツにしました。



 記事の間隔が空いちゃった言い訳の文章なんですが、せっかくだからマンガの話もサクっと書いてみます。今回取り上げるのは麻生みことさんの短編作品「大正ロマンポルノ」です。この作品は白泉社のちょいお姉さん少女マンガ誌の「メロディー」にて、3話集中連載された作品の単行本化です。
「メロディー」といえば麻生みことさんの出世作の「そこをなんとか」が掲載されていたマンガ誌なのでホームグラウンドです。しかし、最近は「麻生みことさんって講談社の人」っていうイメージが強かったです。自分は講談社で描いていた京都の手工業たちをテーマにした「路地恋花」から評価を見直したって感じだったので、講談社の編集部がグッドジョブだったと勘ぐっています。講談社では「good!アフタヌーン」という青年誌掲載だったので、麻生みことさんのマンガの文法が少女マンガよりも少年マンガ向きだったのでしょう。
実際に麻生みことさんを認識したのは「そこをなんとか」の単行本を買い続けてからでした。この作品は司法試験に受かったが就職が決まらずキャバ嬢をしていた主人公の楽子が、いっちょ前の弁護士に成長していくリーガルコメディです。少女マンガとしは展開が男っぽくて、むしろ青年誌の「アフタヌーン」に向く内容だと思っていました。逆に「路地恋花」のほうが白泉社の少女マンガ誌っぽくて、青年誌で少女マンガの文法の作品が異色だった感じでした。編集はミスマッチを狙ったのかもしれませんが「異色なマンガ家だなあ」っていう印象でしかありませんでした。
初期の麻生みことさんの代表作は「天然素材でいこう」だと思います。良くも悪くも「LALA」っぽい印象の少女マンガでした。(掲載作品も読者も理屈っぽいのが白泉社の特徴・・・?)
とても理屈っぽい?弁護士マンガの「そこをなんとか」は、「天然素材・・・」の作者という認識がなく読み始めました。基本的に1話完結エピソードで「事件の依頼~弁護~完結」というルーチンがベースの構成です。少年マンガの主流は連載中のエピソードを途切れさせないマンガなので、4月号は3回のオモテの攻撃、5月号は4回のウラの守備っていう感じのダラダラした作品が普通です。少女マンガの連載作品もそーいう傾向はあるんですが、少女マンガには「オール読み切り」っていう文化があります。4月号に掲載された作品は4月号だけ読んだとしても楽しめる構成です。4月号だけで試合が終了するような1話完結型の作品も多い印象です。

 1話で完結させるためには起承転結をきっちり押さえるのがセオリーです。(あくまでもセオリーであって応用や例外はたくさんあります・・・)“起”や“承”はシリーズものではどうとでもなりますが、ストーリーのキモの部分になる“転”と“結”はアイデアのストックが必要です。
起承転結は4コママンガの描き方として紹介されてますが、起承転結と4コママンガはあんまり関係ありません。昔のマンガの先生たちが「起・承・転・結」という4文字と4コママンガを「ちょうど4つなので収まりがいい」と思ったんでしょう。もちろん無理して起のコマとか結のコマとか当てはめても構わないのですが、型にこだわるよりもテンポや流れを重視したほうが読みやすくなると思われます。
マンガで重要なのは「オチ」の部分だと思われています。「オチ」というのは関西で発祥した会話中で相手を笑かすための文法です。「4コママンガは起承転結」と同じように「マンガはオチ」というのも昔のマンガ入門書の作った幻想です。連載マンガで重要なのは「オチ」よりも「引き」とほうだったりします。「引き」というのは基本は左ページの最後のコマで、次のページへめくる期待感を増幅させるための演出、もしくは来月号が読みたくなるように思わせぶりな終わり方をすることです。
「引き」の弊害は「決着」や「腑に落ちる」ことよりも「未決着」や「もやもやする」ことのほうが興味深い作品と思われしまうことです。
「10年連載した作品がついに完結」っていわれても、伸ばしに伸ばした結果という気がします。ヒット作を10年連載するよりも10年で3作品をヒットさせるほうがスゴいマンガ家だと思います。最終回で全ての謎(疑問やもやもや)が解決されれば「伏線回収」とかいって大喜びなんでしょうが、謎=ストーリーではないので、最終回が謎解き(種明かし)で終わっちゃうと作品を読んだ喪失感は解消されません。一般名詞でいうところの「ネタバレ」という言葉の使い方がおかしい批評家の方々がいます。(町山氏とか、おすぎさんとか・・・)
読み切り連載(作品は毎号続くがストーリーは1話完結)の場合は「引き」でごまかすことはできません。今月号よりも来月号のほうが更に面白いっていうやり方は通用しません。今月も来月も同じく面白い必要があるからです。読み切りは1話だけで面白さが完結する必要があるので「オチ」がとても重視されます。日本で一番「オチ」にこだわった作品は秋本治先生の「こち亀」でしょう。
昔の少年マンガは大ざっぱにいえばストーリーマンガとギャグマンガに分類されていました。面白いだけの短編がギャグマンガで、ストーリー重視の長編がストーリーマンガっていう感じです。この分類は「1・2の三四郎」のようなギャグ満載ながらストーリー性のある長編マンガをギャグマンガと言えるのか?という問題に発展します。
少女マンガのほうは何故かギャグマンガという文化があまり広がらず、シリアスマンガとコメディマンガに分類されていきました。少女マンガの中でもギャグマンガの名作や大御所作家はいますが、ジャンルとしてあまり評価されていないイメージがあります・・・

 麻生みことさんは「マンガはオチや笑えることが大切」という部分にこだわっていると思います。マンガ家としてのサービス精神が旺盛で「作品のテーマ」とか「作者が表現したいネッセージ」とかの“作品論的なおべんちゃら”よりも「面白くてナンボ」っていう潔さすら感じます。このタイプのマンガ家さんでメジャーなのは「それでも町は廻っている」の石黒正数さんですね。
石黒さんのマンガの問題点というのは読後の感動がまったくないっていうことです。石黒さんのファンはマンガで感動しようって思って読んでいるわけではないから、問題点ってのもヒドい言い草なんですけどね。
マンガのストーリーで感動や共感、いい話やなぁ・・・って思える作品は、概して意外な結末よりも読者の予想通りの結末だったりします。ただし、ミステリーはドンデン返しとか予想外のエンディングを楽しむジャンルっぽく思われています。それでも多くの人は自分の思い描いたラストシーンに落ち着くほうが読みやすかったりします。「男はつらいよ」はもっとも多くの日本人が観た作品ですが、寅さんに「予想外のクライマックス」っていうのはありえません。
作者の優先順位が「感動させる」なのか「ビックリさせる」なのかでいえば、麻生みことさんや石黒正数さんは「読者をアッと言わせる」ことのほうを優先させるタイプのマンガ家って印象です。
「予定調和でない」とか「ラストが予想できない」というのはシナリオにとって最大の褒め言葉という感じもしますが、必ずしも結末が予想外なことが重要だとはいえません。逆に読者が8割の部分までの世界観を楽しんでいたのに、ラスト2割の部分が想像と全然違う展開になっちゃったらガッカリっていうこともあります。
例えるのなら読者が読んでいたハシゴがクライマックスで外される感じです。「イヤなキャラだと思っていたら最後で本当はいい人(正しい人)だった」という裏切りはアリっです。しかし「ラストであのいい人キャラが黒幕(ラスボス)だったのかぁ・・・」っていうのは感動しにくいです。「実は悪いキャラ」よりも「実はいいキャラ」のほうが高度なシナリオなんですよね・・・
麻生みことさんや石黒正数さんの作品にはハシゴを外して読者を見下す印象がちょっとだけありました。読者をもっとも見下していたマンガ家の1位は故 吉野朔実さんです。そのほかにも西炯子さんや二ノ宮知子さんなんかも見下し系のイメージでした。
ミステリーの場合はハシゴがたくさん掛けてあって「正解はこのハシゴでした」という構造になっています。この場合はハシゴを外すのを楽しむジャンルなので感動とか共感とは無縁な感じの作品になります。

 今では麻生みことさんに限らず西炯子さんや二ノ宮知子さん、志村貴子さんたちも、メジャーマンガ家になって“一般の読者の気持ちを踏まえた作品”をリリースするようになりました。初期からのファンには「尖っていた頃の作風が好き」っていう意見もあるんでしょうが、メジャーに迎合するというんじゃなくて能力の高い方々が「より面白い作品を描く」ために選択した結果だと思われます。
もちろん選択しないでマイナーながらも尖った作風を貫いているマンガ家さんもOKですし、マンガファンにとってはそーいうマンガ家さんは大好物です。自分の好みは本気か?軽口か?の二択だったら本気で描いているマンガのほうを押します。
麻生みことさんの「そこをなんとか」が連載されていた時期に、井浦秀夫さんの「弁護士のくず」というリーガルコメディマンガも連載されていました。内容はどちらも「問題?弁護士が弁護依頼を解決していく短編シリーズ」です。作風が違いすぎるので両方読んだ人は少ないかもしれませんが、井浦秀夫さんもハシゴ外しの名人です。しかし麻生みことさんが本気にさせて肩すかしさせるのに対して井浦秀夫さんは肩すかしのフリして本気にさせるという真逆な印象です。
ざっくりとした言い方だと麻生みことさんのストーリーは信用できないっていう感じなんですよね。マンガだから面白いか面白くないかでいえば面白いんですが、作者の本気で思っていない感が強く出ちゃっています。結局は本気度が作品の評価基準の上位にあるんですよね。
「ハシゴを外す=ドンデン返し」と考えると、必ずハシゴ外しをしてくるマンガ家さんに萩岩睦美さんや吉村明美さんなどかいます。この方々の作風は「幸と不幸は紙一重」なのがテーマなので、ハシゴの掛け違いはストーリーの重要な要素です。もちろん通常のマンガ家さんのストーリーよりも本気度は高い印象になります。「ドンデン返し」を寓話的に捉えるか、だまし絵的に捉えるかっていうことですね。

 
「大正ロマンポルノ」の裏表紙に書かれているあらすじによると・・・

『時は大正末期。盲目の絹子は小説家志望の青年と恋に落ちる。だが、なかなか芽が出ないこと焦燥感を募らせる青年に、絹子は心中を持ちかけるが・・・。予測不能のノンストップ人間劇ここに開幕!』

作品は第1幕、第2幕、最終幕の3話で構成されていています。本編とは別に「徒花」という短編も収録された単行本全1巻です。
キーワードは“予測不能な人間劇”と“開幕!”という部分ですね。詳細はネタバレなので書きませんが、一番のキーワードは“ロマンポルノ”のポルノの部分です。
遊女と文学青年の恋愛もののディテールがしっかりしているのが予測不能なパートに生きてくるんですよね。思えばリーガルものも弁護士の先生の監修をつけたり、物作り工房マンガも職業や京都をキッチリ取材していました。そーいう知ったかぶらない姿勢が麻生みことさんの最大のセールスポイントなんでしょう。
「大正ロマンポルノ」も第1幕よりも第2幕、最終幕のほうがキッチリ構成されたシナリオです。麻生みことさんのオチをつけなければ気が済まない性格は、マンガ家にもっとも必要とされる気質なのでしょう。この気質は西炯子さんは筆頭にメジャーに売れてるマンガ家さんにはほとんど装備されているスペックです。そして麻生みことさんのキャラの個性の付け方と振り分けが絶妙に上手です。ステレオタイプに「こーいうヤツいるよね」っていう解りやすいキャライメージを登場人物の個性に割り振るんですよね。それはキャラ設定が配役的で脚本重視の創作だからっていう気がします。
それを突きつめると麻生みことさんはキャラクターが描きたいのではなくて、シナリオが書きたいというタイプのマンガ家なのかもしれません。キャラへの思い入れがあまりないから登場人物がガッカリしてしまう展開(ハシゴが外されるラスト)が気にならないんじゃないのかな・・・?

 唯一のネタバレなんですけど、この「大正ロマンポルノ」というタイトルでポルノチックなマンガを期待して買っちゃうのは罠です。内容にポルノ要素は5ページくらいしか出てきません。一番のハシゴ外しはこの作品がロマンポルノではないっていうことです。
麻生みことさんのファンだったら「あ~ エロマンガなんてムリムリ・・・」って察せられるのでしょうが、本屋で平積みの「ロマンポルノ」って書いてある表紙をレジへ持っていくのは少女、淑女の読者には無駄に抵抗感がありそうです。ガチでレディースコミックの読者がポルノマンガを求めていたら「何じゃこりゃぁ・・・」って言いそうですし・・・
別に麻生みことさんのかくエッチぃマンガが読みたいって思う人も少ないだろうし、今回の単行本はハシゴの外し方が絶妙です。そのハシゴ外しを楽しむマンガだと思うので、タイトルの「ロマンポルノ」に反応しちゃいけません。
そーいうこっそりロマンポルノがみたい少女、淑女やガチで熱いロマンポルノ?を求めているお姉さまには、もんでんあきこさんの作品をオススメします。オトナの恋愛(エロ)が描ける人は多いですが、ポルノにロマンが入れられるマンガ家は希少な存在です。麻生みことさんのポルノスキルは花田祐実さんと同じくらいの低レベルな争いです。


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