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2020-03

銀の匙のこと その5 - 2020.03.28 Sat

荒川 弘さんの「銀の匙 Silver Spoon」です。

 かねてからの懸案だった荒川さんの「銀の匙」が第15巻で堂々完結いたしました。懸案は「鋼の錬金術師」の連載中は休載ゼロで鋼のマンガ家の異名でしたが、「銀の匙」では休載からの不定期連載になりファンをヤキモキさせていました。
稼業が北海道の農家だからマンガ家なんて無理してまでやる職業ではないと自分も思います。何年もダラダラ未完のままで放置するくらいだったら、ジャンプのように「俺たちの戦いはこれからだ」で連載終了にしちゃうほうがマシだと思います。
以前にも “銀の匙のこと” という記事を4回書いています。したがって今回は “銀の匙のこと その5” になります。その1とその2は2012年10月で単行本は4巻が出たころです。
その1はゆうきまさみさんの「じゃじゃ馬グルーミンUP」との対比の記事を書いています。この頃は記事に合わせてちゃんと?絵も描いていたんですが「描きたい女子がいないのでボツにした」って書いていました。
その2は経済動物の生と死についてです。当時話題になっていた「飼育した豚肉を捌く」というテーマですね。それを幼稚だなぁ・・・って書いてますね。
その3とその4は2014年1月で単行本は10巻が出た頃でした。その3ではそれまでの農業高校あるあるなマンガが、7巻あたりから主人公たちが動き出すドラマに変わっていったと書いています。
その4はその1で豚丼(飼育している豚の名前)について書いたことに対してのアンサーなので、その1に内容が戻っちゃっています。2~6巻っていらなくない?っていう意見に対して、その過程にこそ食育が・・・っていうコメントだったような気がします。
少年マンガで食育って幼稚じゃないのか?という記事だったんですが、10年経って食育は重要なテーマに認知されています。正しい食事の知識や習慣が人間形成に影響することが認知されています。それでも「豚を食べるのはかわいそう」というのは幼稚園で教えるべきだと今でも思っています。


 そんなこんな第15巻ですが、最終巻らしくエゾノーの卒業式の集合写真が表紙です。単行本のそでに書いてある荒川さんのコメントが「15巻くらい行くかな? その気になればなんぼでも話を膨らませらられるキャラたちってありがたいけれど、締め時を見失う可能性がありますね、うん(笑)」とありました。長期連載マンガはこの締め時が重要で、表紙の卒業式の通りに農業高校グラフィティーだから卒業式エンドが正しいのでしょう。
長期連載でストーリーを完結させる難しさを考えると、裏表紙のキャッチに書かれている『堂々完結!!』に相応しい最終回でした。多くのマンガ(とくに少年マンガ)は最終回で台無しになるケースが多いです。台無しパターンは『始まりは考えたが終わりを考えていなかった』とか『人気が出たために強引な引き延ばしで、つじつまが合わなくなった』とか『打ち切りや作者が飽きたなど不本意な終わり方』などです。
マンガファンは何故か作品に優しいから「最終回はイマイチだけど名作だった」っていう感想を普通に聞かれます。元々が連載マンガは掲載誌で読む文化なので、結末よりもストーリーの過程を楽しむ時間のほうが圧倒的に長いです。故に最後のオチよりも連載中のワクワクのほうがマンガの人気には重要なんでしょう。
ボリュームとしては15巻は必要十分って感じでしたが、いかんせん休載も含めて連載8年は長かったように思えます。唐突に最終巻が出て「ああっそーいう話だったけかな?」っていう印象でした。
15巻の表紙から予想していたのは高校卒業と同時に終了するパターンでした。しかし執斎は単行本の半分で卒業式、その後は大蝦夷畜産大学へ進学した八軒やサブキャラのそれぞれの進路の話です。ラストのロシア・エンドについては後で書きますが、それぞれのキャラが前向きに卒業していくのは良い終わり方だと思いました。
初期のエピソードの豚丼に象徴される八軒の1年生時代のストーリーは「幼稚だなぁ」って思っていましたが(銀の匙 その2参照) その後は駒場の牧場の廃業や八軒の在学中の企業を中心としたストーリーになっています。その中で重要なポジションが八軒の父親で八軒(息子)への出資者という立場でサトーリーに出てきます。それまでの親子の確執?も経営者と出資者という立場になって対等に会話ができるようになりました。
取りこぼしなしで綺麗にまとめ上げる最終回のテクニックは「鋼の錬金術師」仕込みで、さすがは荒川 弘と言った感じなんでしょうね。


 最終巻としてはベタ褒めですが 1~15巻としての作品の評価がベタ褒めか?というと、それはそれで「何だかなぁ~」っていう印象の作品だったような気がしました。「感動の最終回だった」って思った方々はエゾノーの生徒たちが好きだった読者なのでしょう。その人たちにとってはいい卒業式だったようです。
八軒の入試直前に交通事故にあうとか、とってつけたようなエピソードもありましたが、表紙のイラストを見たイメージ通りに粛々と卒業します。卒業式というのはそーいうものなので、卒業エンドという段階でこんな者なんでしょう。
「銀の匙」が自分に合うか合わないかを確かめる試金石になるのは卒業式のシーンです。それまで八軒が走馬灯のように過去の名シーンを振り返り(最終回でありがちな演出?)校長の「卒業おめでとう」からの「 奴隷解放!!!」のシーン。このシーンで爆笑した人と、このマンガって結局コレばっかだったなって思う人に分かれると思いました。自分は後者でした。
ストーリーのテーマは経済動物、酪農経営、乗馬、ベーコン、チーズ・・・ 様々でしたが、ベースになっているテーマは〈農業高校あるある、北海道あるある〉です。農業高校あるあるの集大成が「奴隷解放」というセリフでした。
あるあるマンガには二種類の読者層があり、当事者(そのジャンルに精通している人たち)と、部外者(そのジャンルの知識がなく作品中のセリフや行動がすべてが異次元に思える人たち)です。
最近はあるあるベースの作品が鉄板の題材寄りも多くなっています。誰も注目していないマイナー部活、地味な趣味、そして定番のオタク(アイドル、バンド、コミケ、アニメ、etc )など。
その前はグルメとか温泉など「ヒルナンデス」のネタのような一般向けのお得情報マンガがは流行りました。お料理レシピを紹介するだけだったら「オレンジページ」に勝てません。一般のイメージよりもディープな世界を作品の舞台にするのが最近の傾向ですね。
マイナーレーベルだったら当事者だけが購読する前提でもいいと思います。そかし100万部規模のマンガの場合は、圧倒的に読者は部外者になります。そもそも前半はあるあるマンガとして人気が出た作品です。後半はストーリー重視の結構キツい展開になっていたから、北海道オチの必要もなかった感じです。
最後の「奴隷解放!!!」は「銀の匙」というマンガが開くまでも農業高校あるあるマンガというのを再認識させられました。その意味では鉄板のクライマックスです。


 実は卒業式は15巻の半分くらいで終わっちゃいます。その後は八軒の大学入学やそれぞれの進路、そして伝説?のロシア・エンドになります。
八軒の起業から父親の出資のくだりは青春グラフィティと言うよりも「ガイヤの夜明け」っていう感じでした。だったら最初から学生起業マンガにすればよかったかといえば、それも違うと思います。
ノンポリで逃げるように農業高校へ流れてきた八軒と稼業が農業でリアルに農業高校へ通う同級生の交流がキモだから。アキや駒場たちは当事者あるあるですが、八軒は部外者あるあるです。そーいうシナリオの巧みさが荒川さんの手練れたテクニックですね。
それでも豚肉の食品加工のストーリーになったら「描きたかったのはコレ」っていう前のめりな感じが、初期のビジネスジャンプのような「無理してるなぁ・・・」って印象でした。マンガだから無理してもいいんですが、「最終回に向けて世界平和を取り戻すようなストーリーの無理さ・・・」って感じですね。ガイヤの夜明けなんだからサクサク成功してもいいんですけどね。
自分がマンガで一番評価するポイントは恋愛要素(ラブラブ)が入っているか?です。そーいう意味では「銀の匙」はまさかの八軒×駒場CPエンドでした。もとよりアキに少年マンガにおけるヒロイン要素が低すぎるのが問題でした。単刀直入にいえばアキは可愛くないのが原因です。「鋼の錬金術師」を読んでいないから、そっちでどんなヒロインが出ていたのかは判りません。「銀の匙」では女性が少年マンガを描くときの弊害の「女流作家は女性キャラに対してキビシイ」という部分がでちゃったと思います。男性が描く女性キャラ(ヒロイン)は往々にして甘々です。
アキに限らず登場人物の女キャラはこの世界(エゾノー、酪農、北海道)では男女差は意味のなさないという作品です。男女対等はいいのですがキャラデザインも男女で容赦なしというのが荒川さんのすごいところでしょう。この作品にチマチマした美少女を期待するなというのが真のテーマかもしれません。
この作品に登場した女性キャラの中ではタマコが一番気に入っていました。ストーリーは八軒×アキだけど、最後に八軒が選んだのはまさかのタマコというのは荒川さんの考えるリアリティーにも合致すると思います。何よりも八軒×タマコのほうが会話が弾むし・・・

 
 ところがこのマンガの大ドンデン返しは八軒と駒場のラブシーンで終わるというオチでした。こともあろう二人は過去の思い出を振り返り(普通はヒロインと振り返る)将来を約束する(普通はヒロインと約束する)というのが真のクライマックスでした。お姉さん向けマンガを読んだことがないひとにはピンとこないかもしれませんが、こんな小っ恥ずかしいラブシーンで終わるマンガは少女マンガでも珍しいです。
このシーンを読みながら頭の中で「夜明けの花」やスガシカオさんの「progress」が流れた人は正しい「銀の匙」ファンです。やっぱりこのカップリングだったのかと納得した人は真の荒川さんファンかもしれません。とくに荒川さんの兄弟愛や乳牛愛に関心がなかった自分にとっては「8年間を掛けてこの終わり方かよ!」って思いました。


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