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2018-11

ネットマンガの近況 - 2018.11.21 Wed

うるひこさんの「ゆみとくるみ」です。

 この作品は先日、本屋さんパトロールをしていて見つけたマンガです。ホントに先日だったのでネタバレ等の問題で記事に取り上げるのは躊躇してました。しかし、マイナー作品に限らず最近の本屋さんはあっという間に返本されちゃうので、一月後に取り上げた作品が本屋から消えてることもザラです。
正直いってうるひこさんという名前も初めて知りました。「ゆみとくるみ」がデビュー作なのかな?って思ってたら「ぱりぴほ!」というストーリー4コママンガを描いていました。
「ぱりぴぽ!」のほうはありがちなキュンキュン系のアルアル・シチュエーションマンガって感じでした。(読んでないけど)「ゆみとくるみ」は表紙が「メタモルフォーゼの縁側」の人が描いたマンガと錯覚するくらいな印象ですが、中身の作画はちょっと前に主流だった少年マンガのような画風です。作者名がうるひこという名前なので、読んでいて作者は男性かな?って思ってました。しかし「ぱりぴぽ!」の作画を見ると明らかに今風のWEBマンガの手法だったので、どっちが素のうるひこさんか混乱しました。pixivで「ONE PIECE」の2次作品を描いてたので女性なんだろうなぁって思ってます。
本屋さんパトロールはジャケ買いメインなので「ゆみとくるみ」は「メタモル・・・」のようなタッチのマンガだと想像して買いました。実際はGペンタッチの筆圧の高いマンガでしたが、表情をアイコンで逃げずに、悲しいや嬉しい表情を都度描き込む姿勢は好感が持てました。作画で気になったのは作者自身もあとがきで書いてましたが、ふっくらした主人公のふっくら加減が安定しないことや、憧れの店長とヒロインのゆみさんが兄妹にしか見えないところなど・・・
好き嫌いは分かれますがこの作品も「ぱりぴぽ!」やpixivに上げてるイラストのタッチで描いたほうがウケがよかったと思います。でも、Gペンでガシガシ描いたのはうるひこさんが絵師からマンガ家へ変わりたかったのかなって勝手に想像してます。少なくとも「ぱりぴぽ!」の作風だったら自分には引っかかんなかったです。

 作画は表紙詐欺と言えなくもないですが、お話はそれなりに読み切れるモンでした。うるひこさんはタグに『伝説の絵師』とつくくらいに有名な方のようです。したがってネットでうるひこさんが馴染みの人ほど、この作品を読むとアレ?って思うのかもしれません。
ストーリーは28歳一人暮らしのジミOLのゆみが会社での疎外感から会社辞めたい病になるが、自分が心を開いたら幸せのラインが始まるって感じです。偶然拾ったぬいぐるみのくるみが幸せを運ぶぬいぐるみという設定で、動いたりしゃべったりするところがマンガ的要素なんですね。そーいうマンガ的設定の名作は岩岡ヒサエさんの「幸せのマチ」という作品があります。こーいう微妙な設定を使いこなすのは岩岡ヒサエさんの真骨頂です。憧れの人が手芸店の店主とか、ぬいぐるみの主人公を思う気持ちとか丸被りだったのが気になりますね。マンガのアイデアは先に発表したほうが勝ちなので被ったら後追いって思われちゃいます。逆に被ってると思われないのなら先人のアイデアをいくらパクろうと大した問題ではありません。今回は比べる相手が岩岡ヒサエさんなので作品のクオリティーがハッキリしちゃった感じがもったいなかったです。
うるひこさん曰く『ぬいぐるみが動くという不思議な設定だったので、ゆみさんのキャラはひたすら普通にこだわりました』とあとがきにありました。この普通にこだわる姿勢がこの作品の魅力の全てで、会社でいじけてるOLが不当に扱われてるようでいて実際はそうでもないという実社会の微妙なリアルが描かれています。男性が描くとどうしても不当な扱いを不当に描き過ぎて主人公OLに正義があるようになっちゃいます。女性が描くパターンでは主人公に都合よく助け船が出てきて結果オーライになります。今回のぬいぐるみ設定も都合いいアイテムっぽかったんですが、あんまり役に立たないまま主人公は明るさを取り戻します。ぬいぐるみはゆみさんと店長を結ぶ架け橋になりますが、ぬいぐるみが喋らなくてもその役は十分にこなせたでしょう。
そもそもゆみさんが明るさを取り戻すのではなく、入社してから一貫して暗いOLだった主人公が自分を変えれば明るいOLになれるって話です。化粧ばっかして遊んでる風の設定の同僚OLも、実際は主人公が化粧もしないで会社に行くから悪目立ちしてるだけで、ちゃんと化粧するOLの方が生き生きしてるのは当たり前ってストーリーです。
自分は会社でこーいうOLのグダグダした悩みや不平不満を聞く係(そんな部署は無かったけど)をやっていました。大体が「ズルい」と「ムカつく」と「あの上司に野郎が・・・」です。OLの人間関係での不満はたいがいがサボる、ミスる、手伝わないです。仕事のできるOLはたとえ一人で昼食を取っても、男子社員に色目を使っても問題になりません。やることをやってる社会人は卑下する理由がありません。ちゃんと仕事量をこなしてるゆみさんは本来なら職場で人気者のハズです。「みんながわたしのことを嫌ってる」って思い込んでる人も、むしろ自分のほうがみんなを嫌ってたってことが大半です。
マンガの中の職場関係に学校のイジメ的なモンを持ち込むのは、作品が幼稚になっちゃう原因だと思います。現実にそーいうイジメもあるんだろうけど創作の中の会社を幼稚にしても面白い作品にはならないです。元気に会社に行くことが解決策という流れは、作者がこだわった“普通のOL”は十分に表現できていると思います。

 「ゆみとくるみ」は一迅社からA5判で出版されているマンガです。普通の少年マンガや少女マンガの単行本は新書版といいます。だいたいの値段は400円台くらいです。その上がB6判で青年誌の単行本で多い大きさです。ちょっと高くて600円台以上です。ソレよりも大きいサイズがA5判(ワイド版)です。値段は800円~1000円以上まで・・・
新書版やB6判はだいたいマンガ誌のレーベルとして出版されています。祥伝社などはワイド版もフィール・ヤングのレーベルで出していますが、レーベルのハッキリしない作品も多いです。前々回の記事では集英社の女性マンガ誌「月刊 YOU」が休刊したことを描きました。マンガ誌がなくなるということはマンガのレーベルがなくなるということです。
昨今はテレビ離れが進みドラマも動画サイトで見れるしニュースも新聞を取らなくてもネットで読めるじゃんという風潮です。テレビや新聞はオワコンと切り捨てて観たいモノだけをチョイスできる時代ですが、最初にドラマを作るのはテレビ局だし事件を取材するのも新聞記者です。出版不況の現状ではマンガ誌の衰退は避けられないと思います。縮小するシェアをマンガ家たちが取り合うと面白い作品だけが勝ち残るイメージですが、そんな進化論のようにはなりません。たくさんの作品の中にちょっとだけ傑作が紛れ込むくらいの比率なので、分母が減ると傑作も減っちゃいます。
昨今、マンガを描くというコトが誰にでも手軽にできるようになりました。コミスタというマンガ作成ソフトが2001年ころいですが、まだアマチュアがマンガを発表する環境はできていませんでした。コミスタがクリスタになってさらに普及し、デジタルでマンガを描くことが当たり前になったのはほんの数年前からです。

 それまで、マンガを描くことで一番のハードルは製本するという部分でした。マンガだから絵が描けなきゃとかストーリーを創らなきゃとかは、あんまり重要なことではありません。絵の下手なのにマンガを描いてる人は50万人はいますし、ストーリーが思いつかない人は200万人くらいいます。プロのマンガ家にもたくさんいます。
そもそもマンガというのは本なのであって、マンガ原稿を描いても本にしなきゃ読んでもらえませんでした。マンガ家が出版社に頭を押さえられているのは製本する側と主従関係にあるからです。アマチュアマンガといえばコミケなど同人誌ですが、こっちも製本しなきゃスタートラインにすら立てません。素人マンガが普及したのはデジタル作画の支援ソフトの普及もありますが、モバイルの進化によって紙媒体ではないマンガの読み方が確立しつつあるからです。描き手のためのテクノロジーよりも、読み手のためのテクノロジーの進化が必要だったんですね。
従来の新人マンガ家は雑誌主催のマンガ賞の佳作以上の人を何年も育ててきました。野球のドラフト並みに狭き門でドラ1でも連載ができるとは限らない現実がありました。コミケで一本釣りもあるでしょうけど持ち込みも含めて大抵はマンガ賞入選の賞金が契約金のような扱いですね。よく聞く新人賞の賞金目当てで投稿しても、マンガ家になる意欲がない人は面白くても入選しません。コンテストじゃなくて就職試験なんだから当然ですよね。マンガ誌が減ることは新人をくみ上げるマンガ賞も袖テル編集者も減るということです。もし、出版不況に乗じて日本にマンガ誌がひとつしだけになったとしたら、マンガ家は15人もいればことが足りてしまいます。

 今回、取り上げた「ゆみいとくるみ」は出版元が一迅社ですが作者のうるひこさんはpixivで活躍している絵師サマです。pixivというのは日本最大のお絵描きサイトで、絵師とはイラストを上手に描けるけど職業とまでは認知されていない人たちです。引っくるめてpixivやニコ動でイラストを発表している上手な人のことです。自分もこの記事を書きながらpixivのアカウントを持っていたことを思い出しました。
お絵描きが趣味の人の中でも大きく分けて“キメ絵”が好きな人と、“マンガ絵”がすきなタイプに分かれます。キメ絵はアニメのポスターやラノベの表紙イラストのような絵のことです。クールな絵もありますが、おおよそ萌えっぽい女の子の絵が人気でしょう。マンガ絵のほうはキメ絵のような一枚の絵で勝負してるのではなくて、マンガのシーンのような一コマを切り取った感じの絵です。キメ絵の評価基準が萌えならば、マンガ絵の評価基準は胸キュンです。萌え絵を描く女性絵師は少ないけどマンガ絵は女性が優勢かもしれません。何しろ少女マンガもボーイズもの基本がキュンキュンだから。
自分がpixivを知ったころはネットにマンガを上げるということが新しいマンガのカタチって言われ始めたころです。正直いって自分もそのことに期待してたんですが、当初は素人さんのマンガがあまりにもなクオリティーなのでpixiv自体に失望していました。ソレでほったらかしだったんですけどね。
マンガを描くというくくりではpixivの中でも群を抜いて低レベルな戦いになっちゃっていました。中には傑作もあるだろうが、pixivの検索では膨大な投稿量に対して玉石を見分けるのは困難です。
萌え絵の方々は一枚の絵の完成度がスゴいのですが、マンガには不向きな能力といって過言はありません。マンガ絵のほうは萌え絵に比べたらレイヤーの数でも勝負にならないんですが、キャラの人間関係からくるシチュエーションの可愛さは後のネットマンガブームに合点がいくものでした。可愛いキュンキュンいらすとを四つ並べると4コママンガになるんですよね。

 ネットの読者がマンガに求めているのは読み応えよりも眺めやすさでした。そもそも一番向いてるのはブログなどでの日々の出来事をコママンガで描くこと。キュンキュンの4コマやショートマンガもそうだし、ワンパンマンのような一発ネタは読み流しやすいです。逆にネットでは敬遠されがちな作品のタイプはスラムダンクやONE PIECE、海猿、島耕作など。何というよりも普通の長編マンガ的なもの全般です。問題は1話が長い作品をは面倒だからスクロールしてくれないことです。
既存のプロマンガの作品が「ネットで読み放題」というやつは別のハナシです。あれは紙媒体のレーベルで出したマンガが、ネットでお得に読めるという目的ですから。それはネットマンガがレーベルになることとは別のハナシです。自分はネットマンガの基本ベースが定額で読み放題をアピールしてることが飲み込めなかったんですよね。「タダだから読む」ではジャンルにならないです。
ネットでマンガを発表することの最大にして唯一のメリットは製本する必要がないことです。このことはpixivの絵師や同人作家個人ブロガーを集英社やカドカワと対等にしました。誰もがネットに上げることは自由だから。マンガ描きにとっては本にすることがネックでしたから、製本が必要なければ出版社はいらないんです。出版社は当初既存の紙媒体のマンガがネットで不正流出することにアレルギーがあったので、ネットマンガを否定するところから始めちゃいました。
今年のネットマンガの最大のトピックスは漫画村の閉鎖です。これは従来通りの紙媒体のマンガがネットの海賊版サイトで流通するのを刑事告発~サイト閉鎖にした事件でした。この海賊版サイトの存在は許しがたいのですが、マンガ業界の脆弱さが普通の人たちにもバレちゃった印象です。今のマンガ業界が斜陽なのは海賊サイトのせいだけではないでしょう。

 マンガ誌が休刊になっていく出版不況の現状では、コストのかかる新人マンガ家の育成ができなくなっていくでしょう。そんな中でpixivの絵師たちの中には出版社の育てた新人マンガ家の数倍は上手な方々がゴロゴロしています。投稿してくるマンガ志望者ってマンガが上手に描ける人たちってイメージかも知れません。しかし、実態はマンガ家になりたい人が集まるんであって、マンガの描ける人が集まってくるとは限らないんですね。
逆に、pixivは絵が描ける人も描けないけど描きたい人もごっちゃに集まっています。上記で玉石混淆と書きましたが、ネットサイトなので玉だけをピッキングするのは簡単な作業です。彼ら彼女らは現代っ子なので「マンガ家を目指しふるさとを捨てて片道切符で東京に来た」っていうテンションではありません。マンガは描きたいモノを描きたいように描くから楽しいっていうのが同人やアマチュアの醍醐味です。これらを集めても「ネットの素人マンガレーベル」というそれ面白いの?って感じのレーベルになっちゃいます。pixivの絵師はマンガのノウハウよりもセンスで描いちゃうから、面白くても素人っぽい作品が多い感じです。
まとめると出版社はマンガの才能がある新人が欲しい。絵師はマンガを描くノウハウが欲しい。この二つをマッチングさせれば上手くいくんじゃないのか?そう考えたのが一迅社の comic POOLです。
これはpixivのプラットホームの電子雑誌サービスです。pixivの絵師に一迅社の編集担当が付いて、pixivのサイト上でアップする。pixivが玉を提供して一迅社がノウハウを提供することで、趣味レベルのマンガ愛好家がプロマンガ家になれる道筋を作れるかもしれません。このcomicPOOLで最近成功した作品はしろまんたさんの「先輩がうざい後輩の話」でしょう。本屋さんにいっぱい平積みされてました。「ゆみとくるみ」も買ってからコレもcomicPOOLなんだと気がつきました。
うるひこさんの場合、本来の作風は前作の「ぱりぴほ!」やpixivに投稿していたイラストのような、胸キュン系の女子向けイラストだったんでしょう。しかしこの胸キュン・イラストは掛ける人が多いのが実情です。「ネットで話題のマンガが単行本になりました」っていう触れ込みの作品の特徴はだいたいキュンキュンでした。それは山手線を待ってる時間にちょこっと見るにはちょうどイイ軽さですが、さあ、マンガを読もうと思えるほどの内容ではありません。
一般にpixivに投稿してる人の心情は「自分が描きたいイラストやマンガを自由に投稿する」という媒体です。ソコに投稿者や閲覧者が求めているのは可愛いとかイチャイチャとかアルアルとかです。間違っても「ゆみとくるみ」の主人公のような太っちょでさえないOLとか、陰口をささやく同僚、おとなしい子に仕事を押しつける上司ではありません。今回の単行本は明らかにpixivの投稿テイストとはかけ離れた画風とテーマでした。

 出版社のマンガ賞に応募した新人のほとんどが投稿した作品のテイストを捨てて、ある意味担当編集者の支持で作風を返させられてます。コレは作者が描きたいモノを描かせて貰えていないともとれますが、新人が描きたいモノが読者に通用しない場合もあります。ピッチャーでドラフト1位なんだけど外野手にコンバートされるような感じです。うるひこさんの場合も「本格的なマンガを描くんだったら、太っちょのOLが成長する話を描いてみないか」と言ってくれる編集者が付いたんでしょう。
「ゆみとくるみ」はキャラの不安定さや構図、人形が活躍するエピソードの安易さなど、気になる部分も多かったです。むしろぬ値キュンのほうが楽に見栄えのいいマンガが描けるんだろうと思います。でも、ネットマンガでもこーいう作品を描くという姿勢を見せられたのはネットマンガの前進だと思います。
自分はcomicPOOLが始まった時にpixiv作家と出版社の融合というのが、素人マンガの無料閲覧サイトくらいに思ってました。ネットでマンガを読む習慣もないですし・・・しかし、「ゆみとくるみ」のような作品をリリースするのならcomicPOOLは十分にネットマンガの新しいレーベルになっていると思います。マンガはネット化、デジタル化、データ化していくのいうのは業界もファンも一致した見解です。でも、出版社の現状でのデジタル化のイメージは、紙雑誌がデジタルメディアで閲覧できるようになるという感じでした。有名マンガをデジタル配信するというパターンですね。本当のデジタル化というのは紙マンガのデジタル変換ではなくて、初めからデジタルの手法のマンガ家が生まれることなんでしょう。comicPOOLはそーいう取り組みなんだと思います。


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