topimage

2018-09

家族と仕事と恋愛と - 2018.09.11 Tue

鴨居まさねさんの「にれこスケッチ」です。

 鴨居まさねさんはデビュー当初から少女マンガというよりも女性誌マンガ家って印象でした。当時ミリペンでマンガを描く人が増えてきました。そもそもマンガはGペンとかカブラペンとかで描くモノだという決まりがありました。マンガを描いたことがない人にもイメージは湧くと思います。いわゆるつけペンというものです。つけペンというものはそうそう上手く描ける代物ではありません。
誰もがお絵描きを始めたのは幼児期のクレヨンからだと思われます。お絵描きの遍歴はクレヨンから色鉛筆、絵筆、鉛筆、シャーペンと進化していきます。不思議なんですけど最初から彩色こみで絵を描かせるんです。幼児が最初に手にする画材は12色のクレヨンで「好きに描いてごらん」って言われます。やがて色鉛筆を買ってもらい、小学校に入ると水彩絵の具が主流になります。
小学校を卒業するまでは絵画は美術の時間ではなく図工の時間です。図工は基本的に「自由に描いてごらん。好きに作ってごらん」という方針の授業です。すべての小学校の先生に絵心があるワケでもないから、作品の芸術性なんかは採点基準にはありません。「自由に描かせる」という教育方針のせいで、画材の特徴や使い方は一切教えない(教えられない)ということになります。
後に知ったことですが水彩絵の具は本来「透明水彩」と「不透明水彩 ガッシュ」に分かれます。透明水彩は水墨画をカラーにしたようなイメージで、ガッシュは水性の油絵っていう感じです。透明水彩の特徴は白を塗るという概念がありません。しかし実際に図工で空を白く残すと、先生に「手を抜かずちゃんと全部塗りなさい」って怒られます。空は空色っていう不思議な色を塗らされます。「じゃあ雲は雲色に塗るんでですか?」ってことになって図工が嫌いになる子もいると思います。自分がそういう子どもでした。
色の調合の仕方も色の乗せ方も教えずに自由に描かせるせいで「絵画が面白くない」子どもが増えてるんじゃないでしょうか?音楽の時間にたてぶえを渡して「穴を指で塞いでプーとやってごらん。じゃあ自由に音を鳴らしてみようか」っていう授業はありません。笛の吹き方は教えるのに、絵の具の溶き方すら教えないのはどうなのかな?

 マンガはつけペンで描くという決まりができたのは、手塚治虫さんをみんなが真似たからだと思われます。最初はふっくらとしたフォルムのカブラペンを使っていたとのことです。全国のマンガ家志望者たちがこぞってカブラペンを買ったのは想像できます。そもそもつけペンはアルファベットを筆記体で書くためのものです。横文字のアルファベットは書く方向性が一定ですが、日本語はタテ・ヨコ・ナナメなので自由度の高いペンが求められます。後に出たGペンはやわらかくして強弱がつくのでマンガ用ペンって感じになりました。
これは万年筆で絵を描くようなもんですから、誰にでも真似できる芸当ではありません。以前はマンガ家を目指してもつけペンで挫折するパターンが多かったと思います。現在はデジタル作画でペンフリーなマンガ家さんも多くいます。どうしてもつけペンが苦手なんだけどマンガは描きたいという人たちの中でハヤったのがミリペンです。サインペンと同様のものですが指定された一定の太さの線が描けます。一定の太さで描けるということはメリットでもあり一定の太さの線しか描けないというデメリットもあります。Gペンのメリットは強弱がつくというものでした。強弱がないと生きた線が描けないということです。ミリペンやサインペンを認めているマンガ教則本もありませんでした。しかし、最近はマンガ画材としてはむしろつけペン以上に大きく扱われている印象です。昔のマンガ家でもミリペンが枠線に使いやすいことに気付いてる人も多かったです。

 70年代は「陸奥A子のような絵なら自分でも描ける」「大島弓子のようなストーリーなら自分でも描ける」という、マンガ家志望のうっかりさんが大量に出現しました。そして80年代は「ミリペンをつかえば岡崎京子くらいの絵は描ける」っていうエセ岡崎が大量に現れました。さくらももこさんもこの頃の横着マンガ家のひとりです。
画材が自由な例ではマンガ家としての安彦良和さんは筆でMSやアムロを描いています。そんな人はあんまりいないんでしょうけど、美術系の出身でマンガを芸術と思い込んでる人でアートな画材のマンガを描いてる人もいなくはありません。安彦さんのスゴいのは筆で普通につけペンのように描けることです。単純に線の強弱だけを比べるなら、ペンでは筆にかなわないです。
鴨居まさねさんは作画に自身があるわけじゃないけどマンガを描きたい。ミリペンだったら描けるんじゃんないかん?ってタイプでした。お話の筋立ては破綻してないしキャラもリアルなんだけど作画がリアルに描けない感じでした。キャラの描き分けと喜怒哀楽の描き分けは抜群に良かったので、鴨居まさねさんは『絵が下手なのではなくつけペンが苦手なタイプ』だと思います。マンガにおける絵の上手・下手は線の綺麗さや細かさではなくてタッチに魅力があるかどうかです。
実際には当時の女性誌(レディースコミック)あたりでは、鴨居まさねさんと似たり寄ったりな絵のレベルのマンガ家さんは山のようにいました。しかしセリフやモノローグなどの文章のセンスがずば抜けているので、読んで面白いマンガ家っていうのはそんなにいません。森本梢子さんとかもそうですが、マンガ家は面白ければちゃんと生き残るもんです。

    ブログ画像 にれこスケッチ JPEG 

 初期作品で主人公が町工場のボンクラ娘が社長(父親)の秘書になるお話のマンガがターニングポイントだったと思います。この作品の主人公はトレンディドラマ全盛期のレディースコミックのような鈴木保奈美的OLや浅野温子的バリキャリではありません。出世作の「SWEETデリバリー」ではオリジナル挙式を企画する会社のお話でした。女性誌向けマンガのテーマが彼氏や自分の浮気からの三角関係から、お仕事と恋愛の板挟みへ変化していった時代でもあります。鴨居まさねさんは作中にヘンなお仕事を取り入れるのが上手です。最近では麻生みことさんが抜群にうまいですね。
鴨居ワールドは変わったなお仕事パターン。太陽アレルギーでドラキュラ生活のキスケさんや、屋上に上がれない高所恐怖症などのヘンなマイノリティー。あと欠かせないのが、ぶちゃいくな猫。解くに猫好きのマンガファンには高い支持を得てるようです。
表題の「にれこスケッチ」は小学1年生で初恋した“かっこいい清田くん”を思い続け、28歳になった今も清田くんの傘工房に弟子入り志願して断られるお話です。何だかんだで稼業のブラシ屋を手伝うことになって、元彼も登場してなんやかんやの展開です。ストーリーの構造は志村貴子さんの「こいいじ」に似た設定です。「こいいじ」は複雑にこじれた人間関係ながら稼業の銭湯を中心としたホームコメディを狙った作品です。銭湯のホームコメディといえば「時間ですよ」ですね。先日「にれこスケッチ」も往年のホームコメディを彷彿させてることに気がつきました。
うちのBlu-rayデッキは起動させるとまずBS12がつくようになっています。これは録画中のサッカーが最初に移らないためです。仕事から帰って「録りためてる愛者遍歴を観よっと」とスイッチを入れると水前寺清子さんの顔がBS12に出ていました。BS12では夜8時の枠で古いドラマの再放送をしてるんですが、水前寺清子さん主演の「ありがとう」をかなりの間放送していました。今はマチャアキの「天皇の料理番」をやっています。
「ありがとう」は水前寺清子さん演じるはすっぱな娘と、山岡久乃さん演じる母親との母子家庭を中心にしたドラマです。それに青臭い石坂浩二さんとのしょっぱい恋愛。山岡久乃さんは森光子さん、京塚昌子さんとともに「三大昭和のお母さん」で知られています。さらに付け加えるなら、いかりや長介さんでしょうか?ちなみに三大人妻は岸恵子さん、いしだあゆみさん、黒木瞳さん・・・?

 さすがに「ありがとう」の初回放送当時は知らないんですが、再放送のシーンを観てると決まってちゃぶ台を囲って山岡・母がチーター・娘に小言を言っているんです。しかもチーター娘が減らず口を利いてさらに叱られるパターン。「ありがとう」の魅力はこの巧妙洒脱な母娘の会話です。このドラマの会話を書いていたのが脚本家の平岩弓枝さんでした。さすが文豪ってことで納得ですね。
「にれこスケッチ」は山岡さんとチーターの掛け合いをマンガ化したようなテイストの作品です。傘工房はともかく稼業のブラシ屋をおばあちゃん、母親、末っ子の楡(にれこ)の三代で切り盛りするホームドラマです。長女、次女は理系エリートで所帯持ちですが、みんなが末っ子の楡に優しいので安心感のある仲の良さです。
鴨居まさねさんの作風は悪役や嫌われ役を出さずにお話を成立させられるところにあります。敵味方の対立図を作るほうがシナリオ的には楽ですが、鴨居まさねさんはあんまりギスギスさせません。主人公の怒りや憤りのシーンはキレッキレだけど、おかざき真里さんのような「世代に問題提起するような強さ」は好まないようです。
ホームドラマをテーマにしたマンガは意外と少ないです。マンガの本来の対象年齢が子ども向けなので、本格ホームドラマって馴染まないところがあります。似たテーマで人情ドラマがありますが、人情がストーリーの中心になるとまた別ジャンルになります。家族という同じメンバーでジンmン生最高の瞬間(感動)を求めることなく、淡々と連載されながら日々の暮らしが面白いというのがホームドラマのツボです。それこそ橋田壽賀子さんのホームドラマのような王道のホームドラマを楽しむ感じで読めるマンガです。
以前、どこかで読んだのですが「活字界に鴨居まさねファンは多い」というのを作家だか誰だかが書いていました。言い得ていたと思います。マンガを見る人よりもマンガを読みたい、むしろ小説を読みたい人にこそ鴨居まさねさんは向いてるんだと思います。鴨居まさねさんの文体が心地よくなるとミリペンの温かいタッチが利いてくるんですよね。
あと、猫好きに人にもオススメ。マンガ界でも有名な猫好きマンガ家のひとりです。


「ほぉ」って思ったら押してね

NEW ENTRY «  | BLOG TOP |  » OLD ENTRY

管理人のらいかです

マンガを描くという事を目標にして
マンガの描き方を考えるブログです
(ネタバレの可能性があります)

は記事の内容に「ほぉ」と
思えたら押して下さると嬉しいです

最新記事

訪問していただいた人数

月別アーカイブ