topimage

2016-06

大声で叫ぶマンガ - 2016.06.17 Fri

西川秀明さんの「3月のライオン 昭和異聞 灼熱の時代」です。

 このマンガは羽海野チカさんのベストセラーマンガ「3月のライオン」のスピンオフ作品です。 原案・監修に羽海野チカさんのクレジットがあるので本人公認の作品のようです。 このマンガを読むまで西川秀明さんという名前は知らなかったのですが、かなり少年マンガではキャリアのある方のようです。 アニメのコミカライズやバイオレンスが得意とのことなので、自分の購読傾向とはあんまり接点のないマンガ家さんでした。 3月のライオンの外伝というのは自分のスイートスポットなので初めての西川作品なんですが、西川さんの過去作とはかなり印象が違う作品のようですね。
西川さんのことをどれくらい知らないかっていえば、1巻を読んでいたときにはてっきり羽海野チカさんのアシスタントさんか何かだと思っていました。 むしろヤングアニマルつながりでの編集部主導の企画って感じです。 この作品は3月・・・に出てくる将棋連盟の会長(70歳)の若き日のエピソードなんですが、作画の要所で羽海野チカさんのクセを上手く取り入れてるんですよね。 羽海野先生がアシスタントにデビューのチャンスを作って上げたんだって勝手に納得してました。 それくらい本編の世界観を壊すことなく原作ファンからの失望や失笑も買わないクオリティーになっています。 西川さんは「偽書ゲッターロボダークネス」などの原作の設定や世界観を逸脱した熱い少年マンガ展開が魅力のマンガ家さんなので、旧来の西川秀明ファンのとっては肩すかし感があるのかもしれません。

 ドラマは3月のライオンに登場する将棋連盟の会長の徳ちゃんと永世名人の朔ちゃんたちの若き日々のお話です。 時代背景が昭和44年なので3丁目の夕日的な要素もあり、チキンラーメンやホームランバーなどの昭和あるあるネタも満載です。これらの登場する実在の商品等は各メーカーに掲載許可を取っているチカラの入れようなので、昭和世代がドンピシャのオールドファン以外にもレトロ好きな若いファンにも楽しめる作品です。 ドラマの基本テイストは羽海野チカさんの世界観を踏襲してるので羽海野チカファンでも安心して読めます。 とくに背景の細部とコマ割のクセが羽海野チカさんのツボを押さえてるなって印象です。
では「灼熱の時代」が3月のライオンのレプリカか?といえば実際はかなり別モンっていう感じがします。 そもそもハチクロで少女マンガ界に確固たる地位を築いた羽海野チカさんがヤングアニマルで将棋マンガを描いてるっていうほうが違和感なんですよね。 むしろ西川さんが3月のライオンの原作者っていうほうがそれっぽいんでしょう。 でもハチロクの作者の次回作が将棋だったからこそインパクトがあったんだし、そこいらの少年マンガ家よりも勝負シーンで読者を引きつける技量があったことに読者がびっくりしたんです。
少女マンガ家が青年誌で連載するのも近年では珍しいことではありません。 トップクラスの少女マンガ家なら男の子向けでも女の子向けでも面白いモンを描けるってことです。 はなから少女誌では不発だったけど青年誌なら通用したっていうタイプもします。 青年誌に少女マンガをそのまま描くパターンと、少女マンガを捨てて少年マンガとして描くパターンにも分類できます。 本格少年マンガやノンジャンルなマンガを志してる作家さんには、おかざき真里さんや惣領冬実さんや吉野朔実さんなどが当てはまります。 少女マンガで少年マンガのジャンルに通用させたいタイプは二ノ宮知子さんや森本梢子さん鳥飼茜さんなどで、羽海野チカさんもこのタイプに入るんだと思います。
3月のライオンの場合は主人公の立身出世や勝負世界の競い合いなどコテコテの少年マンガの題材を、少女マンガのノウハウを使って描いているので“青年誌に掲載されている少女マンガ”でしょう。 3月のライオンの特徴は、とにかく将棋をしていない展開が長いっていうことです。試合こそが少年マンガなんですが次女のいじめ問題や家族問題など、おおよそ将棋に関係しないホームドラマにシナリオを割きすぎています。 こーいう複数のキャラの物語を並列で展開させるのが少年マンガには苦手なことなんですよね。 試合が途切れたり物語が寄り道すると読者のほうも引き延ばしって勘ぐっちゃいます。

  ブログ画像 灼熱の時代 JPEG

 西川版の3月のライオンともいえる灼熱の時代ですが、世界観を抑えてるからって3月のライオンと同一のマンガということではありません。 この2作品は絵柄は似ているけどマンガの内容としては真逆なテイストです。 羽海野チカさんはキャラの内面は外面に現れないということを信条にしているんだと思います。 他者への頼り方や甘え方が判らない桐山やイジメを耐えるひなちゃんなど、世の中は言いたいことがすべて言える人ばかりではないってことがベースになってます。 しかし西川さんの作品のベースになってるのはオレは言いたいことをすべて言うってキャラです。 熱く語る、熱く戦う、叫ぶ、吠える・・・描きたいのは悟空VSベジータって感じの少年マンガ的な強いキャラの同士の対峙なんでしょう。
灼熱の時代の主人公の神宮寺崇徳は、もともと羽海野チカさんが3月のライオンの中の脇役として作ったキャラです。しかし唯我独尊で大声で話すキャラなので、羽海野チカさんがもっとも主人公にしなさそうなキャラです。でも神宮寺というキャラの作りは少年マンガでいえば王道なので、本来のヤングアニマルの読者層にとっては正解なんでしょう。 少年マンガの編集部が3月の桐山と灼熱の神宮寺を比べたら普通に神宮寺ほうを採用すると思います。
でも羽海野チカさんの作風は大声で話すキャラと対極にいる人々の物語っていう印象です。押しに弱くて悩みすぎるさえない感じの主人公が大声のキャラに振り回されるって感じです。本編に出てくる神宮寺会長はそーいう意味でまわりを振り回す側のキャラとして登場します。そんな会長の若き日の物語だからキャラ設定は間違っていませんし、むしろ少年マンガ的な西川版の神宮寺はハマっているんですよね。

 自分はマンガなどで読む・読まないを選ぶときに、キャラが大声で叫ぶかどうかを一つの基準にしています。 ジャンプやマガジンなど大体の少年マンガは会話の等級がデカい文字で叫びあってる感じですよね。 ストーリーのなかの論理も叫んでるキャラが正しいみたいな、頭の悪い人たちって印象しかありません。 原因はキャラや展開の熱量を絵の勢いとかセリフの大きさ(文字の)でしか表せないからなんでしょう。 お笑い芸人でも大声だけで笑わそうとする人が結構いるみたいですよね。あと目を見開くキャラとかゲップするキャラとか・・・
強いキャラや爽快なキャラにカタルシスを求めるのもマンガの楽しみの一つです。 痛快なキャラこそが少年マンガの醍醐味です。しかし羽海野チカさんは常に爽快でも痛快でもないマンガを描き続けています。 3月のライオンを読んで爽快になりたいって思ってる読者はほとんどいません。ワンエピソードが長々と続くので読者は何巻分も解決しないモヤモヤにつき合わされます。 そしてちょっとずつ事態が改善に向かうと読んでいてホッとできるんです。
羽海野チカさんが少年マンガの誌面で将棋という男の子向けのテーマを少女マンガにすることで比類ない作品にしました。 まあ珍しいマンガですよね。 西川さん羽海野チカさんが少女マンガで描いていた本編をスピンオフということで再び少年マンガに戻しちゃったってカタチです。ヤングアニマルという雑誌のカラーからすれば灼熱の時代のほうが正しいんですけどね。羽海野チカさんの作風は苦手っていう方にこそ灼熱の時代はオススメかもしれません。 自分は3月のライオンのスピンオフじゃなかったら読まなかっただろうけどね。 だって大声だし・・・

 細かい相違点ですが3月のライオンでは将棋のシーンでマンガ的な比喩的演出をあまりしていないんですよね。 灼熱の時代でアレ?って思ったのは将棋の対局中に将棋盤がコスモ(宇宙)になったうことです。 3月のライオンでは将棋をウソに描かないっていう信念みたいなモンが伝わってきます。 灼熱の時代では車田正美さんだったらこんなかな?っていう対局シーンなんです。対局が命のやり取りっていうくらいに見えるんですが、どーいう局面で勝ち負けがついたのかは伝わらないんです。 3月のライオンでも局面なんか描いてないんですが、わかったような気分で読めるんですよね。 そこらヘンがパンチを描かずに勝負がつく車田正美さんに通じるところがあるんでしょうか?
あと1巻よりも2巻が過去にさかのぼったドラマで3巻はさらに昔話になるようです。 過去、過去、過去っていう描き方は謎が明らかになるに囚われすぎた演出なんでしょうね。 物語はなるべ現在を追うべきです。


「ほぉ」って思ったら押してね

NEW ENTRY «  | BLOG TOP |  » OLD ENTRY

管理人のらいかです

マンガを描くという事を目標にして
マンガの描き方を考えるブログです
(ネタバレの可能性があります)

は記事の内容に「ほぉ」と
思えたら押して下さると嬉しいです

最新記事

訪問していただいた人数

月別アーカイブ