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2016-03

打ち切り作品の流儀 - 2016.03.27 Sun

秋★枝さんの「Wizard's Soul 恋の聖戦」です。

 この作品はKADOKAWAの「月刊コミックフラッパー」という、一般の方々はあまり聞いたことがなさそうなマンガ誌で掲載されていました。 過去に「ふたつのスピカ」とか「二十面相の娘」などメジャー化した作品もありますが、多くの作品の傾向はカドカワ大好きなアニメ系マンガファンをターゲットにしたマイナー系女の子マンガが主流です。 過去作も含めて自分がコミックフラッパーの作品で単行本を買ったっていうのは秋★枝さんの「煩悩寺」と柳原望さんの「高杉さん家のおべんとう」いけだたかしさんの「34歳無職さん」くらいだったと思います。 それぞれこの日記か以前のブログで取り上げたんですが、どーかなぁ?って感じの微妙な作品っていう記事だったと思います。
マンガ家さんやマンガファンにアニメを好きな人が多いのは当然のことですが、自分はアニメが好きな人へ向けて描いたマンガがあんまり好きではありません。 マンガが好きでアニメも好きなマンガ家さんは問題が無いんですが、アニメが好きなためにマンガでアニメを描こうとしてるマンガって読んでて違和感が多いんですよね。 カドカワはアニメとマンガと小説と音楽等々をメディアミックスとして統合し、全てのジャンルを同じ人へ売りつけようという戦略を考えました。 この発想はなんだかイオンモールのつまらなさがある気がします。 あと、どうしてもカドカワなどのコンテンツ産業の人たちは、作家や読者やユーザーたちを見下してるっていう感じが消えません。 イオンモールが買い物に便利だという人やアニメマンガが好きな人にはいいんだろうけどね。

 秋★枝さんは同人誌(コミケ等)で活躍し商業誌へ移行していったマンガ家さんです。 ある意味「マンガ道」や「バクマン。」みたいなリアルマンガ家志望ではなくて、マンガ好きが高じて趣味でマンガを描いてたら職業になっちゃったっていう印象です。 それはお絵描き少年少女たちの理想の展開でしょう。 当人がどれだけプロ志向で同人誌を描いてたのかは知りませんけどね。 オープン(一般読者向け)なマンガとクローズ(趣味性の高い)なマンガのハイブリットを狙ったところが商業誌で成功した要因だと思います。
読者が読みたい作品を作者が描くのが商業誌で、作者が描きたい作品を読者が読むのが同人誌です。 このバランスはマンガ誌や同人誌の中でもそれぞれで、ニッチな内容や趣味性に走っている商業誌もあるし、売り上げ至上主義でコミケでウケる作品を描いてるプロ化した集団もいるようです。 少年ジャンプや少年マガジンといったメジャーマンガ誌は、読者ニーズのみを編集方針にしているので読者の反応には敏感です。 読者の評価によっては数話で打ち切りってことも結構あります。 ここでいう評価とは本当に小中学生が面白いって思うかどーかなのでとてもスリリングです。 例えば学校の授業だと教室の全ての子が理解できるレベルで教えるべきだとすると、一番理解できない子が判るレベルにしなきゃいけませんよね。 これだと賢い子ほど授業を聞かなくなっちゃいます。 賢い子にこそ賢い授業を与えたほうがいいのに、賢くない子のほうの人数が多いと授業のレベルはどんどん下がっちゃいます。 マンガでいえばレベルが高いとか低いとかの差はありませんが、マンガを読む理解力には差があります。 出版社側が子供にはこーいうマンガを読むべきとかウケるとか売れるとか言ってるとしっぺ返しをされます。 現在の子供のマンガ離れは出版社が読者をミスリードしてきた結果かもしれません。 問題はいっぱいあるんですけどね。
それじゃマンガ家さんの自由な創作をそのまま載せればいいのか?ってことですが、そんなバクチは打てないのが現実です。 ラーメン屋さんはウマいマズいの差はあるがどの店でも最低限はラーメンが出てきますが、マンガ家の場合はマンガにすらなっていない作品を描く人も数多くいます。 どんな評判のラーメン屋でも麺のゆで方や餃子の焼き方くらいは判っていますよね。 そこら辺のコントロールは出版社がやらなきゃダメなんですが、その役割が存在しないのが同人誌なんです。

 今回取り上げたWizard's Soul はTCGをテーマにした珍しい作品です。 TCGって何のことでしょう? 東京の人なら五反田の東京卸売りセンターを思い出しますがあれはTOCですね。 TCGはトレーディングカードゲームのことで世に言うトレカってやつです。 それこそ小さい子向けマンガにはトレカを題材にしたマンガはあったようですが、普通のマンガの題材にはあんまりなったことがなかったらしいです。 トレカを楽しんでいる人が自体が限られてるし、ルールの判らない人に何やってるのかを伝えるのも大変だからでしょう。 そんなニッチなテーマに挑めるのもマンガならではなのですよね。
秋★枝さんは誰もやっていないような(言い過ぎ)TCGを『カードゲームがメジャースポーツで、ゲームに強ければ金持ちにもモテモテにもなれる世の中のハナシ』というファンタジーマンガに描きました。 本編中では野球やサッカーくらいにメジャーなゲームという設定だから、作中の世界観ではいまさらルールの説明なんかするキャラは出てきません。 作者の秋★枝さんもあえて「極力ルールの説明せず、なんとなく雰囲気を楽しんでもらう」という制作意図があったと後書きで書いてました。 麻雀マンガの「咲 Saki」なんかも麻雀ファン向けではないところが似た狙いかもしれません。 自分はカードゲームにはまったく知識が無かったのですが、あえてまったく調べないでマンガを読んでいました。 ある意味秋★枝さんの狙い通りの読者です。
そーいう特異なテーマのWizard's Soulですが単行本4巻分で連載打ち切りになっちゃいました。 連載打ち切りなんてマンガの世界ではよく聞く話です。 連載打ち切りは名前の知らないマンガ家が名前の知らないマンガを描いていて、誰もそのマンガを知らないから打ち切られた事実すら知られないっていうのが普通です。 あだち充さんクラスになると今回の連載はいつもより短いなって読者に思わせるくらいにシレっと連載が終わっちゃいます。 あくまでも『我々の戦いはこれからだ』って言い張るタイプの打ち切りも多いです。

 秋★枝さんの場合は明確に打ち切られたと4巻(最終巻)のあとがきで書いていました。 2巻のあとがきの段階で「ニッチな分野のマンガを描かせて下さるフラッパーさんには頭上がりません」とか「打ち切られないように頑張りますので・・・」って書いてました。 連載当初からの確信犯的な打ち切りみたいですね。 打ち切りの理由なんていうモノは一にも二にも不人気なんでしょうけど、あだち充さんが持ってる責任額と秋★枝さんに期待する額は違うと思われます。 失礼なイメージなんですが、それほど多くの読者が読むことを想定しているマンガ家さんじゃないって感じです。 マンガそのものがつまらなかったっていうのが打ち切りの理由だったら、過去の秋★枝さんのマンガがソコまで面白かったわけでもなかったような気もします。 秋★枝さんのマンガがつまらないというより、そんなに面白くなくても買ってくれるマンガファンを狙ってるんでしょう。 そもそもフラッパー自体がそーいうタイプの読者層を狙ってるワケじゃありません。 だから少年ジャンプの連載打ち切りとは印象が違うんですよね。
この打ち切りは秋★枝さんの自己分析通りに『恋愛メインの萌え萌えカードゲームマンガ』というテーマがウケなかったっていうことなんでしょう。 しかしカードゲームというニッチなジャンルがマンガに向かなかったっていう結論はいかにもジャンプの編集部っぽくって腑に落ちません。 そもそもマンガっていうのはニッチなジャンルに向いてるメディアです。 むしろテレビドラマのほうがニッチなネタを題材にしにくいんでしょう。 今から十数年前にテレビの黄金期がありました。 フジテレビがブイブイしてた頃ですね。 あの頃はサブカルやニッチな題材が普通のテレビで扱われるという不思議な時代でした。 今はテレビ局も制作会社もスポンサーさんも視聴者たちも、テレビに何かを期待してるようには思えません。 それはテレビというメディアは何かを生み出すときに頭を下げなきゃいけない数と、しくじった時に頭を下げなきゃいけない数が多すぎるからでしょう。
打ち切りになったということは編集部では読者はこのマンガを面白くないって思ってると判断したことになります。 実際につまんないっていうアンケート(投書)があったのかもしれませんが、秋★枝さんのマンガを読む方たちがそんなネガな意見を秋★枝さんへぶつけるとも思えません。

 ニッチなゲームをテーマにした作品が必ずしも一般読者にウケないとは限りません。 メジャーでは末次由紀さんの「ちはやふる」の百人一首とか、二ノ宮知子さんの「87 CLOCKERS」のオーバークロックなど。今でこそ百人一首のマンガに誰ひとり違和感はありませんが、連載当初は競技かるたのマンガって相当変わったテーマでした。 オーバークロックに至ってはいまだにそんなこと誰がやってるの?っていうレベルでしょう。 そのマイナーさを逆手にとってオリジナルなマンガを描いてるんですけどね。 この手のニッチなのに成功してるマンガに共通してるのは、誰も見たこともやったこともない競技でも試合展開はきっちりと描くというところです。 この点では実は秋★枝さんのマンガでもけっこうきっちり描いていたようです。 最低限カードゲーム経験者からの評価は高かったみたいだから。 ではヒットと打ち切りの差は何だったのでしょう? それはキャラの魅力でした。
末次由紀さんの ちはやふるは百人一首が面白いのではなくて、千早という主人公をはじめサブキャラも全員が面白いんです。 ちょっと出しのキャラでもきっちりキャラ作りをしています。 特に原田先生が圧倒的に面白いキャラですよね。 二ノ宮知子さんなどはクラッシックだろうとオーバークロックだろうと質屋さんだろうと、テーマに関係なく二ノ宮キャラは面白いっていうブランド化しています。 秋★枝さんのキャラはどうか?っていえは、いつも通りの“安定の秋★枝キャラ”でした。 コレが打ち切りになるのなら今までの作品も打ち切りじゃ?って感じですが、編集部もカードゲームというニッチさのせいで打ち切りを決断しやすかったんでしょう。
しかし本当は「カードゲームという設定を思いついたがその物語のためのキャラの設定までは煮詰めていなかった」というのが打ち切られちゃった根本的な原因だと思います。

 この日記では一貫してマンガの設定がストーリーではないと書いてきました。 マンガを手に取るときに重要なのは設定ですけど、そのマンガを読み続けるかどうかを決めるのはキャラへの愛着です。 アンチキャラとかダークキャラとかって言ってるファンや創作者の方々もいますが、結局は少数の側の意見にすぎません。 この作品でいえば出てくるキャラが主人公も含めて好きになれないタイプの人間ばっかりなのが原因だと思います。 とくに彼氏とか父親とか母親とか同級生とか。 妬みや謗り、蔑視などは特定のキャラであっても気をつけて使わなきゃいけないのに、ストーリーの中心にこーいう負の感情ばっかりを並べるとドラマの部分じゃなくて読んでいてつまらなくなっていきます。 主人公が「嫌われる」という言葉を多用してるのもマンガをネガティブにしている要素でした。 たとえそれがストーリーのテーマであっても、周囲の登場人物たちに嫌われてるっていう主人公には魅力は感じられません。 特にアニメファンなどからマンガを描き始めたタイプの方は、定型的な意地悪キャラ(ステレオタイプ)を描きがちです。 最近のアニメはアニメファンが作ってる影響なのか、こーいうステレオタイプが標準化しちゃってますね。そーいう薄っぺらなキャラづくりは小手先の感情描写をより心に引っかからない印象にしちゃいます。
この作品秋★枝さんがフリーに展開させていた初期(単行本1~2巻)のころよりも、打ち切りが決まって編集部と腹を割って話し合ったラスト(単行本3巻~4巻)のほうが読みやすい展開になってます。 この傾向は打ち切りがせまったり編集担当が変更になったりすると見られる傾向です。 読んでいてそう思えるってだけなんですけど、判りやすく“てこ入れ”したなって感じです。 最初のころは親の借金を返すためにカードゲームで大会に出るっていう展開だったんですが、主人公が何をしたいのかが伝わってこなかったんです。 しかし、てこ入れ後は取りあえず始まっている大会を終わらせて綺麗に連載終了しろというお達しだったようです。 しょうがないから「この戦いに勝てばなにかが判るかもしれない」っぽいことを主人公に言わせて押し切る方針のようでした。 結果的に対戦相手のキャラもいい人が多くなって、それっぽい最終回になっていました。
4巻の裏表紙のアオリで「対戦を通して友達もできたし、瑛太くんとの仲も少しはもとに戻ったような・・・」って書かれています。 アオリは編集者が書くモンだろうから、担当の方もそこが気になっていたんでしょう。 普通に考えてマンガの主人公は友達ができたり、喧嘩した彼と仲直りしたりすることでストーリーが進むモンです。 この部分は末次さんも二ノ宮さんもけっして手を抜きません。 こーいう人間関係のギクシャクを上手に描けなる人がマンガの上手な人っていうんでしょうね。 初期の秋★枝さんはこーいうギクシャクを独自のテイストで描くっていうイメージだったんですが、読者も作者当人も独自のテイストに引っ張られすぎている感じです。 マンガの面白さというよりも秋★枝さんの着眼点の独特さを重視しすぎてます。 それで打ち切りだと本末転倒ですよね。

 あと気になったのはカードゲームの試合で主人公の勝ち方が常に“後出しじゃんけん”なところ。 カードゲームって楽しいのか?っていうことではなくて、ああ全部相手のカードの内容に被せてくるんだっていう違和感。 カードゲームが知的なスポーツという前提はあるにしてもカードをめくるということは偶然や運が入るからゲームなんだという気がします。 でも「偽りの不死、私のコントロールするクリーチャーはターン終了時まで破壊されない」とかのカードが出て勝っちゃうと、何じゃそのカード(展開)は?って思っちゃいます。 某人気麻雀マンガで主人公が必ず嶺上開花で和了れる設定への違和感に近いモンがありますよね。

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