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2016-01

トリビュートの作法 - 2016.01.31 Sun

NHK BS 「中島みゆき名曲集~豪華トリビュートライブ&貴重映像~」についてです。

 この番組は去年11月におこなわれたリスペクトライブ「歌縁(うたえにし)」からの編集と出演者のインタビュー、中島みゆきさん本人歌唱映像(生出演なし)で構成された番組でした。 当然だけどライブへ行くほどの機動力はありませんでしたが、音源だけをニッポン放送(ライブの主催)にて年末の大掃除のとき床にひたすらワックスを掛けながら聴いていました。 去年は2年に一度のワックス年だったのですが、もっと頻繁にワックスしたほうがいいのは解ってるんですけどね。 午前中は前田愛さんがとっちらかってるガメラ映画を観ながら(聴きながら)床のワックス落としをしてました。 大掃除というチョーつまらない作業には内容とかどーでもいいような怪獣映画が丁度いい感じです。 でも出てくる怪獣がどーかしてるんだから出演してる人間たちはもう少しちゃんとしていて欲しいと思うんですが、ちゃんと観ていないから言えた義理じゃないですよね。
ニッポン放送のオンエアでは上ちゃんが真面目モードでサクサクと進行していましたが、今回のNHKバージョンではもうすこし番組らしくなっていました。 でも、どーせならライブ中継の完全中継してくれればうれしいんですけどね。

 そもそもトリビュートとリスペクトとカバーって何が違うんでしょう?主催者のニッポン放送ではリスペクトと言ってますがNHKではトリビュートと言っています。 トリビュートを調べると貢ぎ物とか賛辞とかでてきます。 ネットなどの教えて系サイトではパクリの免罪符とか揶揄されてますが、なんだか訳知りに決めつけてる人が多くて面白いですね。 リスペクトもパクリの免罪符って書いてましたがリスペクトの意味は普通に考えて尊敬です。 そうするとトリビュートコンサートは賞賛するためのライブでリスペクトコンサートは尊敬するためのライブです。 こうしてみるとトリビュートは同等もしくは格上のアーチストが相応しく、リスペクトは格下が相応しいことが解りますね。 わかりにくいたとえですが美空ひばりさんの歌を雪村いづみさんが歌うのがトリビュート、天童よしみさんが歌うのがリスペクトでしょう。 亡くなったアーティストのためのコンサートやアルバムもトリビュートってつくことが多いから、トリビュート=追悼ってイメージもあります。 でも追悼はモーニング(mourning)だから追悼コンサートはモーニングコンサートが正しいような気がします。 でもモーニングコンサートって芸大や交響楽団などの朝コン(morning concert)のことを指す言葉です。
カバーは賛辞や尊敬などといった原曲やオリジナルの歌手への思い入れよりも自分が歌いたいという理由で拝借する曲のことです。 トリビュートもリスペクトもカバーも他人のふんどしにはかわらないのですが、カバーにいたってはふんどしに自分の名前を書いちゃう厚かましさがあります。 現代での最強のふんどし担ぎといえば徳永英明さんですが、あの『他人が歌ったヒット曲もオレ様が歌うとオリジナルの3倍はよくなる』っていう風な態度にはトリビュートもリスペクトも感じられません。

 今回のNHKの「中島みゆき名曲集~豪華トリビュートライブ&貴重映像~」はリスペクトライブ「歌縁」に出演したアーティストの中から8人を抜粋してます。 年末のニッポン放送の音源ではないのですが曲のセレクトがかなりかぶってました。 ライブには東京、大阪の2夜通して11人が出演していますが、オンエアされたのは東京会場に出演した8人です。

満島ひかりさん 「ミルク32」
中島美嘉さん  「命の別名」
大竹しのぶさん 「化粧」
坂本冬美さん  「雪」
研ナオコさん  「あばよ」
華原朋美さん  「黄砂に吹かれて」
中村 中さん   「元気ですか」「怜子」
クミコさん    「世情」

 トリビュートにしろリスペクトにしろ中島みゆきさんを敬愛するアーティストが集まったので誰ひとりとして遜色のない楽曲でした。 出演者のリクエストに応えて中島みゆきさんの秘蔵音源(貴重映像のパート)も混ぜての構成なので、出演者のみゆき愛への意地の張り合いも面白かったです。 中島みゆきさんは「暗い、失恋、うらみます」という世の中のイメージの時代と「洗練されたヒットメーカー」という時代、「NHKによくでている人」っていう現代に分けられます。 セットリストの楽曲がネクラと言われていた昭和の曲に片寄ってるのは、昔からのファンを自負したいという見栄と出演者全員が「中島みゆきの曲って暗いよね」って思ってるから?
それでは出演している8人のトリビュート具合を見てみましょう。 トリビュートという以上は「原曲のイメージを壊さない」とか「原曲と喧嘩をしない」そして一番大事なのは「オリジナル楽曲をリスペクトしているファンのイメージを壊さない」ということが大切です。 今回の番組で中島みゆきさん自身が歌う映像とトリビュートしているアーティストたちの映像を交互に観ることができました。 (ラジオの時はライブの出演者の楽曲のみでした) おかげでトリビュートの境界線があることに気がつきました。
どんな曲にもオリジナルの歌手が表現したいイメージがあります。 曲の良さをオリジナルの歌手が引き出し切れていない場合は徳永さんらカバー野郎たちの餌食になっちゃいます。 しかし中島みゆきさんのようなトリビュートされる歌手たちは曲の良さを十分に引き出しているのでそんな心配は必要ありません。 心配なのは原曲を敬愛するがあまりに曲の良さを過剰に引きだそうとするケースです。 とくに中島みゆきさんには多くの方々の中に自分だけの中島みゆき像があります。 現物の中島みゆきを差し置いて自分の思い込んだ中島みゆきに陶酔するのはトリビュートとはいえず、いつの間にかカバーになっちゃってる場合があります。
「みゆきさんだったらこう歌う」っていう中でこうの部分が中島みゆきという人物に対するイメージそのものが反映しちゃう人が多いです。 TUBEの前田さんはどこを切っても夏休みですが中島みゆきさんは曲ごとにテイストを変えた世界観があります。 とくに暗い、失恋、うらみますの三つで語ることなど無理なくらい無数の中島みゆが存在します。

オンエアされたアーティストをトリビュート、リスペクト、カバーに分けて考えてみましょう。 出演者は女優枠が満島ひかりさん、大竹しのぶさん、中村 中さん。 中堅歌手枠が中島美嘉さん、華原朋美さん。 大御所枠が坂本冬美さん、研ナオコさん、クミコさん。 中村 中さんは中堅歌手か男優かで悩むところですが演目を観ると女優としての参加っぽかったのでこっちにしました。 大御所枠は歌謡曲、演歌、シャンソンとおのおのその分野で看板を張ってる方々です。
女優枠の3人は全てリスペクトって感じでした。 彼女らは演じるというコトに人生をかけているので、中島みゆきさんをボーカルではなくてアクトレスとして評価しているみたいです。 舞台者としてのライバルと位置づけているようなので『この曲を私だったらこう表現してみせる』っていう想いが強い印象です。 彼女ら演じる者たちにとって良い演技がその登場人物になりきることならば、いかに歌の世界に自分を投影できるかがテーマになって行きます。 実際に夜会では歌や言葉(セリフ)をどこまで投影できるかの実験的な要素があるみたいです。 しかし曲にはそれぞれ本来のスケールが存在します。 イメージすればいろいろな大きさの土俵のような感じでしょうか。 今回の選曲でいえば「ミルク32」と「黄砂に吹かれて」と「世情」は曲の大きさやカタチが違います。 そのカタチは歌詞のメッセージ色だけではなくメロディやリズムなど曲調の狙いなどアレンジによるモノでも変わります。 それを無視して自分の好みで歌うのがカバーなんでしょうけど、女優枠の方々は無視するどころかリスペクトするがあまり土俵を割っちゃいます。 それは中島みゆきだったらもっと情念を込めるはずとか、こんなんじゃまだまだ夜会に追いつかないみたいなヘンな頑張りのせいです。

 満島ひかりさんの「ミルク32」はいい感じに歌ってはいました。 以前に「ファイト」をコマーシャルでカバーした縁での参加みたいですが、いい感じなのにちょこっと演技が入っちゃうんですよね。 「ミルク32」はイントろから最後まで「グズグズなオンナがマスターにグズグズに絡む」っていう感じがテーマです。 最後の♪ねぇミルク・・・ねぇ・・・まで、我慢して一本調子で 歌うからこのけだるさがでるんでしょう。 この曲の主人公はいつもの店でいつものマスターに演技なんかしません。 何もしない人を演じるには何もしたい演技が求められるでしょう。 歌を聴いていて表現力の善し悪しよりもシナリオを読み間違えてるって思いました。
大竹しのぶさんは泉谷と「黒の舟歌」を歌うなど最近『歌う大竹しのぶ』をよく見かける印象です。 今回の「化粧」は大竹ワールドとしてはうってつけの選曲でしょう。 たぶんこのライブイベントで一番頑張っていたのは大竹しのぶさんでしょう。 もう泣きながら渾身の歌唱は一人舞台のようでした。 しかしそれは♪流れるな涙、心で止まれ・・・っていう歌詞を歌ってるんだから泣いちゃダメじゃんって感じです。 原曲は終わった恋を嗚咽しそうになりながら堪えるバカなオンナを歌っています。 ソコが土俵の際なんでしょう。
 大竹しのぶさんは「私は女優なんだからもっと感情を込めることができる」っていうプライドと自信があると思います。 そう中島みゆきに負けないくらいの感情で歌えると。 しかし中島みゆきさんはこの曲の大きさを大竹しのぶさんが歌った大きさより僅かに小さく創りました。 ライブや夜会をほとんど知らないので曖昧な思い込みですが、中島みゆきさんは歌いながらな泣いたことは一度もないんじゃないのかな? それは中島みゆきというアーティストは全ての曲の感情を演出(コントロール)しているからです。 だから歌いながら感極まって泣いちゃうことはないんだと思います。 昔まっさんも自分の歌を歌いながら泣くことはないって言っていました。 野坂昭如さんも「黒の舟歌」を感極まって歌ってたワケじゃなかろう。 この女優のワザを使ってオリジナルに勝とうというのはカバーではOKですが、勝ちたいっていう気持ちの中に尊敬は含まれていませんから。 土俵を大きく踏み越える大竹しのぶさんの手法は、観るものを圧倒するチカラがありますがそれはやっぱり勇み足です。

 中村中さんは特異な経歴で有名になった歌手です。 自らのジェンダーな問題を告白して歌手活動をしていましたが、まったくの女性歌手として認知して欲しいのかトランスジェンダーとしての存在を認知して欲しいのか判断がつきませんでした。 その問題よりもアーティストとしての中村中さんの作品にあまり興味がなかったのでよく知らないお姉さんって暗いの認識でした。 べつにまったくの女性なんだったら胸張って女性を貫けばいいんでしょう。 でもトークの中にオネェネタがあってへーって思いました。 オンエア曲は「元気ですか」の朗読から「玲子」へのアルバム「愛していると云ってくれ」の流れです。 この曲のキモは朗読の「うらやましくって うらやましくって 今夜は泣くと思います」からの♪れ~い~こぉ~ いい女になったね・・・の部分です。 この曲はこの連携の部分が全てと言ってもいいでしょう。 中村中さんは朗読の「うらやましくって」という文章に女優としての表現力を注いじゃっています。 すでに闘ってる相手が中島みゆきさんではなくて大竹しのぶさんとの女優対決になっちゃっています。 その鬼気迫る朗読の中の「うらやましくって」はオトコを取られた情念で奪っていったオンナへの怨み節(怨念)のようになっちゃってます。 ここからの♪れ~い~こぉ~は完全にホラーです。 この朗読も歌も相手のオンナ(玲子)を呪うのではなく自分の惨めさを思い知らされてつらいって歌です。 それと朗読の「元気ですか」は心の叫びの一人芝居ではなくて、あくまでも朗読だから朗読の表現方法が正解だと思います。 セリフのような部分も主人公のホンネのセリフではなくて文章にしたためたものを読んでいるって意図です。 感情的に読んでもいいのですが読んでいるっていう部分を超えて芝居になっちゃ違うモンになっちゃいます。 別の音楽表現?で「港のヨーコ」みたいな朗読ではなくセリフ形式もあります。 「元気ですか」はわざわざ紙ノイズも消さないで入れてるくらいに朗読を強調してるんだから。
中村中さんがこの曲をわざわざ選んだのも大竹しのぶさんが「愛していると云ってくれ」から「化粧」を選んだから対抗心でしょう。 満島ひかりさんもこのアルバムから「ミルク32」を選んでますし、女優チームは本当に誰と闘ってるんだか?

 中島美嘉さんは「雪の華」くらいのイメージしかなかったのですが、今回久々に観たら不良少女みたいになっちゃってましたね。 ラジオで聴いた時は映像がなかったので普通に過不足なくカバーしてるなって思っていました。 NHKで映像を観たらうわっこええ・・・って感じです。 何が怖いっって眉毛が・・・こっちを見るなって暗い怖い顔です。 なんで板の上で勝負してる人たちはクラウチングですごむんでしょうか? 歌は普通に「命の別名」でした。 やっぱり上手ですね。
華原朋美さんの「黄砂に吹かれて」は中島みゆきトリビュートではなく工藤静香トリビュートでしたね。 だったら中島みゆきさんを熱烈にリスペクトしている工藤静香さん当人を呼んだほうがよかったって思いました。 絶対に出たかっただろうに。 今回のブッキングは朋ちゃん復活計画の一環なのでしょう。 でも他の7人の以上なほどのみゆき愛に比べたら華原朋美さんは温度が違いすぎた感じです。
研ナオコさんの生歌も久々に聴いたんですがさすがの風格ですね。 でもトリビュートっていうよりも研ナオコ・リサイタルって感じでした。 自分が最初に聴いたみゆきナンバーは全て研ナオコさんの楽曲でした。 その後、これらを作詞作曲した人が中島みゆきさんって知ったんですが、子どもながらに一番歌が上手い歌手は研ナオコさんと八代亜紀さんだと思っていました。 母親がファンだったんですけどね。
クミコさんも風格でいえば「クミコォ たっぷり~」って感じの風格です。 選曲が「世情」でやっぱりこれも「愛していると云ってくれ」のラストナンバーです。 一定の世代は「加藤おぉぉ」って叫びたくなる名曲です。 激しい楽曲ですが曲の土俵をいっぱいに使った見事なシュプレヒコールでした。 曲のテーマがシャンソンに合う感じがしましたね。

 最後に坂本冬美さんの「雪」ですが、年末にニッポン放送で聴いたときに「今年の紅白はこれ歌えばいいじゃん」っていうくらい完璧な「雪」でした。 なんていうか「いいモン観させていただきました」って感じです。 あらためてNHKで映像を観たんですが、リスペクトしていてトリビュートな一曲でした。 中島みゆきさんが歌いそうな「雪」を坂本冬美さんならではの歌い上げでした。中島みゆきさんの曲が聴きたい人にも、坂本冬美さんの歌声が聴きたい人にも満足のいくステージでした。 土俵、土俵言ってきましたがこーいう歌い方こそが他人の土俵で相撲を取る人の作法だと思います。

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