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2014-07

現実のつまらなさ - 2014.07.13 Sun

竜田一人さんの「 いちえふ 」です。

 もう、すべての人々が忘れちゃったどーでもとかった事件があります。  「 美味しんぼ 」の鼻血騒動です。 「 鼻血と原発の因果関係や風評被害が何たら・・・」って大騒ぎしていたのですが、マスコミもネット論者たちもすっかり飽きちゃったみたいです。 掲載された「 スピリッツ 」も廃刊されることもなく、「 私も鼻血が出た 」っていう新たな証人が現れるわけでもなく、ましてや「 福島って鼻血が出るから怖いらしいよ 」って風評してる人もまったくいません。 「 美味しんぼ 」を読んでから福島の野菜は怖くて食べないっていう消費者もあんまりいなかったようです。 原作者で言い出しっぺの雁屋 哲さんを擁護していたアンチ原発派も「 擁護するほどの意見か?」という疑問で腰砕けのなっちゃいました。 まかりなりにも国会まで話しが行った事件の顛末なのにね。 自分は「 美味しんぼ 」という作品には興味が無かったのでちゃんと読んだことがありませんが、話題になった最終回の2話だけはさすがに読んでみました。 最後は地元の会席料理みたいなのを食べて「 我々の戦いはこれからだ!」って感じで終わったような気がします。 あんまり覚えてないけどね・・・

 先日、京都マンガミュージアムで「 震災とマンガ 」というシンポジウムが開かれました。 著名なマンガ家が8人が震災をマンガでどう伝えられるか?というお題だったようです。 自分自身の考えなんですが、マンガというジャンルは社会正義や行政、国家政策などのマクロな題材には向かないメディアだと思っています。 震災で置き換えれば「 家族を失った子供の苦悩や葛藤 」はマンガが最も得意な題材です。 しかし、「 原発行政のヤミとか政権与党の陰謀 」といった大きな題材では、マンガの持つ“マンガっぽさ”が信憑性を低くします。 でも、人に寄り添うミクロな題材ではテレビや新聞などの大マスコミたちよりずっと的確で感動させることが可能です。 
自分の中の震災マンガナンバーワンである吉本浩二さんの「 さんてつ 」という作品があります。 これは三陸鉄道の被災から復興までを鉄道マンや地域住人たちに寄り添ったルポマンガです。 こーいう描き方がマンガに向いた表現方法だと思います。 三陸鉄道に絡む復興問題や利権構造の犯人捜しは、実はマンガ向きなジャンルではありません。 

 今回の 美味しんぼの鼻血事件は、福島原発の行政や弾力会社が隠蔽してる真実を暴くような“社会正義”には向かないことを表しています。 そもそも「 マンガに描いてあることがウソだ 」って怒ってるのは「 消える魔球なんか本当はあり得ない 」と怒ってるのと同義ですよね。 マンガがウソを描いていいのか?っていう問いには、悲しいかなウソはありというのが正論です。 昔のマンガにはもっとたくさんのウソが描かれていました。 小学生たちは「 おおっ」とか「 やべぇ」とか言いながら、やがて「 ウソウソ、マンガだから 」って言うようなってマンガを卒業していくモンです。 「 福島が危険 」というマンガを描くのもどーかな?って思いますが、「 マンガを読んだ読者たちが福島を危険って誤解する 」って思うほうも脆弱な感じです。 騒いだのはマスコミやネット論者だけで美味しんぼの読者の中に真に受けて騒いだ人はいないと思いたいんですが、美味しんぼのファンって「 鯛はこう食べるのが正しい 」とかのウンチクマンガを真に受ける人たちだから・・・

 竜田一人さんの「 いちえふ 」は福島第一原子力発電所労働記という副題がついています。 自分がこの作品の存在を知ったのはラジオの報道番組で某コメンテーターが「 福島原発でマンガ家が実際に働きながら内部ルポをモーニングに連載してる 」って紹介していたからです。 この作品の趣旨は原発の是非を問うような「 フクシマの真実 」を暴くマンガではなく、作者が見てきた「 福島の現実 」を描くマンガということです。 言葉の使い方で面白いなって思ったのは「 フクシマ 」とカタカナで書くと原発関連をイメージして「福島 」と感じで書くと地名など普通の福島県をイメージします。 タイトルの「 いちえふ 」は原発コメンテーターたちの常套句「 フクイチ 」ではなくて、地元が福島第一原子力発電所を呼ぶときの通称「 いちえふ 」が使われています。 作者の「 フクイチって言ってる評論家は現場を知らないニワカ 」っていうプライドが現れているタイトルです。 

 この作品は福島の現実というように鼻血が出たか出ないかを問題提起するためのマンガではありません。 実際に原発作業員として就職した作者自身が、現在の作業状況の見てきたままをマンガにしています。 作業員という立場で、原発推進派の行政やお抱え科学者、ジャーナリストや反対派で儲けている見識者たちのバイアスがかかった意見ではない現実を描くという取り組みのようです。 実際に立ち入り禁止区域や原発建屋や敷地内の描写には引きつけられるモノがあります。 牛たちが野生化して子牛を産んでたり、なるほどって思わせるあたりは見てきた者の強さを感じます。 
自分が一番最初に読んだフクシママンガはいましろたかし氏の「 原発幻魔大戦 」というマンガでした。 こっちも同じ福島原発をあつかってるんですが、主人公(作者自身?)がケータイのネット情報だけを眺めながら「 日本はダメだ 」とか「 ヤバいよヤバいよ 」って言ってるだけのマンガです。 当時、そーいう人が多かったようなので彼らを皮肉ったマンガなのかと思ったりもしたのですが、いましろたかし氏自身がそーいう人らしいです。 ネットやマスコミに氾濫していた情報に踊らされちゃダメだよって時に、マンガというメディアですっかりバカ踊りしてるのがいましろ氏のマンガでした。 読む価値がないマンガっていうか、マンガをバカの道具に使わないでくれって感じです。 テーマがテーマだけに、表現の自由はあっても「 バカは検閲すべき 」と思っちゃいました。 いましろ氏とは永遠にわかり合えないんだと思います。

 「 原発幻魔大戦 」で懲りたので、震災マンガとか原発マンガとかはほとんど読んでいませんでした。 そもそも社会性が高いことをマンガで表現するのには否定的だから。 なぜ今回は「 いちえふ 」を読んだのかといえば、原発に意見する作品ではなくて原発の中に行ってきたっていう作品だったからです。 前文の通りマンガは原発の是非を問うことには向いていませんが原発に行ってきたというルポマンガには向いています。 見てきたとか体験したなどをレポートするのにはマンガはとても自由度の高い表現メディアといえます。 文章プラス写真というよりもマンガのほうがイメージ通りに伝わる場合が結構あります。 「 いちえふ 」の作者の竜田一人さんも体験したことをマンガで表現することに長けたマンガ家さんですね。  濃密に取材して記事を書くジャーナリストは多いですが、それは話を聞いたり現場を見たりしただけです。 あくまでも取材とは知ってる人に教えてもらうことなので、実際に働いた経験をマンガに描くこととは現実感に差がでます。 特に原発問題は肯定派と否定派がいますのでニュースソースによっても正反対の記事が書けちゃいます。 このマンガの存在をを教えてくれた評論家たちも、このマンガのジャーナリズムを絶賛していました。 内部で働いた者にしか知り得ない情報が満載でしたから。

 しかし、この作品は本当に絶賛するほどのジャーナリズムなのでしょうか? 竜田さんが勤めていた業者は6次下請けでたくさんいる“いちえふ”の出入り業者のほんの一部にすぎません。 それでは一般の方々の「 東電や政府はフクシマで何を隠してるのか?」とかの疑問にはたどりつきません。 だって竜田さんは自分で見たことをマンガに描いてるだけだから。 
多くの一般の方々が興味のあるだろう原発の内部ではなく、竜田さんの日頃の生活っぷりを描いた漫画です。 防護服の着かたやマスクの選び方などの“現場でしか知り得ない情報”ばっかりが出てきます。 車でいちえふへ行く道中とか、いちえふで仕事をしたい人には必読のマンガです。 それ以外の人にはあんまり興味がないような知り得ない情報です。 「 他愛もない日常が面白いんだよ 」っていう読者にはいいのかもしれませんが、マスクの付け方が2度出てきたあたりでこれ以上の体験をしてないから描くことがないのか?って感じです。 このマンガは体験を元にして描いてるので、竜田さんの体験したこと以外は描けないという決まりがあります。 マンガに出てくるふくいちの内容のほとんどが防護服を着て線量を計り防護服を脱いで線量を計り・・・ ブラック企業のアルアル的な読み方もできますが、ソレもドヤ暮らしと弁当ネタの繰り返しっぽいです。 これから第2巻以降で竜田さんに壮大なドラマが待ってるとは思えません。 キャッチコピーに「 いちえふ の日常は続く。 僕たちの日常と同じように。」って書いていましたから。 
このマンガを読んで「 なんだか福島第一原発ってあんまり面白くないんだな 」って印象でした。 震災に面白いかどーかっていうのもナンですけどね。 マンガで表現する以上は面白く描かなきゃダメってことです。 それは震災をからかうとか笑えるマンガいうことではなくて、読者の興味を引きつけるように描くべきってことです。 先ほどの「 さんてつ 」はドキュメンタリーでありながら圧倒的なドラマがあります。 この作品で三陸鉄道のことを知った方もいたと思いますし、さんてつ復活に多少なりの貢献をしたと思います。

 前記の震災とマンガのシンポジウムで出席者のヤマザキマリさんが「 マンガは共感を訴えるだけではなく、社会を刺激するメディアであっていい 」と発言していたそうです。 
前回のらいかの日記の感情移入のお話と相反する意見です(笑) 

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