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2014-07

優しいインモラル 2 - 2014.07.01 Tue

仙石寛子さんの「 夜毎の指先 真昼の果て 」の続きです。

 マンガやアニメに限らず、小説や映画で面白い作品に共通しているのは、読者や視聴者がその作品に感情移入できるというところです。 では、感情移入とはどーいう意味でしょうか? グーグル辞書で調べると「 自分の感情や精神を他の人や自然、芸術作品などに投射することで、それらと自分との融合を感じる意識作用 」と出ています。 なんだか化学反応の説明みたいでピンときません。 
ブルース・リーの映画を観ながら「 アチャ 」って奇声を発してる人のことが一般的に感情移入してる状態といえます。 これは主人公の人物像に感情移入してるけど、ストーリーに感情移入してるわけではないですよね。 「 感情移入=主人公と一体化 」って考えると、ブルース・リーや高倉健が出てる映画じゃなきゃ感情移入できないってことになっちゃいます。 実際には名も無き俳優の当たり前の演技の作品でも感情移入できます。 
また、ストーリーに感情移入するという言い方もあります。 自分自身が失恋してると恋愛ドラマのヒロインの気持ちが「 わかる、わかる 」っていうようなパターンです。 これは「 感情移入=物語への共感 」ってことですね。 人情話などはベタな展開のほうが物語の流れがわかりやすいので、多くの人たちが安心して物語へ共感(感情移入)できるようにできています。 感情移入とはマンガを描くのに最も重要で最低限必要な技術のことです。 投稿マンガで絵が上手いのにボツになる人の場合は、作品に感情移入させることが必要ってことを理解していない場合がほとんどだと思われます。

 マンガ教則本などでは「 主人公は読者が感情移入できるようにしましょう 」って書かれてるようです。 これだとキャラの好みは千差万別なのに、「 万人向け=画一的なキャラ 」を作れっていってるようにも受け取れます。 「 ~ しましょう 」って言われると逆らいたくなるのがビギナーたちの常です。 彼らは一流のシェフ(マンガ家)を目指しているから、ファミレスのような一般大衆(普通の読者)向けの味付けを馬鹿にしてる傾向があります。 でも、感情移入できるキャラとは味付けくらいはしようということです。 有機野菜の穏当の旨さを引き出すために「 あえて味付けはせず、野菜本来の味を楽しんで下さい 」っていうオリジナル料理よりも、しっかりと味付けした料理のほうが美味しいでしょう。 感情移入とはそーいった最低限の味付けのようなモンです。
読者を作品に感情移入させるにはキャラとストーリーのどちらに力点をおけばよいのでしょうか?  キャラに感情移入するのが正しいのであれば、「 ルパン三世 」はルパンというキャラが好きなファンにとっては全作品感情移入できるってことになります。 しかし、実際にはルパン好きにとっても微妙な作品も多いようです。 また「 ドラえもん 」のようにキャラ構成だけで継続している作品ではドラマの云々はあまり関係ないです。 ファンはあのキャラの世界観だけを楽しんでるんだから。 単に共感できるキャラと共感できるストーリーを合わせたら、それはただの“日常系”の作品になっちゃいます。 そーすると「 他人(作中のキャラ)の日常にいちいち感情移入できるかよ! 」ってなっちゃいます。 そもそも、読者は何に感情移入してるのでしょうか?

 一般に作品レビューなどで言われる「 感情移入 」という言葉とマンガの演出で必要な「 感情移入 」という言葉はべつものだと思ってください。 読者を作品に感情移入させるのために、魅力的なキャラや共感できるテーマが必要なわけではありません。 キャラが魅力的なほうがいいのは当然ですが、魅力がないキャラだって登場させなきゃいけない場合がありますし、共感できないほど突飛な発想のストーリーだってあります。 
なんだか禅問答のようですが、読者を作品に引き込むための感情移入とはキャラ設定やテーマのことではないようです。 そーいう大まかな部分ではなくてもっとワンシーンごと、セリフ単位ごとで感情移入できれか?ってことが重要になります。 「 そのマンガを読んでいて読者の考えや感情と合致してるか?」もしくは「 登場人物の行動や言動に合点がいくか?」ということです。 広い意味では「 主人公の生き様に泣けた!」ってくらいの感想だったら感情移入してるんでしょうが、本当は作品でいちいち泣けなくったって面白ければ問題ないんです。 でも、読んでいてモヤモヤしたり納得できなかったりするのは問題があります。 そーいうモヤモヤは作品に入り込む妨げになります。 読者は「 1コマ読んで納得する 」という行為を繰り返しながら読み続けます。 感情移入させるとはこの読者を納得させるということです。 したがってキャラに共感させたりストーリーで感動させたりすることが感情移入ではないってことですね。 

 今までの仙石寛子さんの作品はこのモヤモヤが常にあった感じでした。 女教師と男子生徒モノでも設定やテーマが自分tと合わないのではありません。 女教師や男子生徒のセリフの言い回しやリアクションに「 そーいう言い回しはヘンだろう?」って思いながら読んじゃうんですよね。 仙石寛子さんの「 揺れる心を繊細に描く・・・」というキャッチフレーズのセリフがかみ合わないトコやセリフの意味をワザと取り違える演出など、ワザと読者が納得しないようにしてるのか?って印象でした。 読んで納得させることが本質ならば、納得させないセリフ回しは「 読者に感情移入させないように仕向けている 」とも言えます。 感情移入とは1コマ単位で考えるもので、1コマの中の1フレーズにも共感できる共感できないがあります。 共感できるシーンが多い場合はサクサク読めるから感情移入してるっていう実感なしに読み終わっちゃいます。 共感できないシーンが多いと作品全体が感情移入できないって感想になっちゃいます。 前回の日記で書いた「 仙石寛子さん 好き という言葉が薄い 」というのも、この人のマンガ好きというセリフに共感できないからです。 それは恋愛マンガでは致命的です。 面白いマンガというのは笑えるマンガとか泣けるマンガではなくて「 読んで納得できるマンガ 」です。 たとえ作品のテーマがインモラルで読者がノーマルでも読者が違和感なく読める作品なら感情移入できる作品です。 一部のマニアにのみ理解される作品なら同人誌と同じです。 同人誌とはそーいう意味の言葉だから。

 仙石寛子さんの作品では主人公とその相手だけが世界に残されたみたいに、主人公の気持ちが世界のすべてみたいに描かれています。 少女マンガに必ずいる世話焼きでお母さんみたいな親友や、何でも助言してくれるお兄さんみたいな先輩など。 これらのベタなキャラたちは主人公がこんがらがっちゃったときに「 主人公や読者を正しい方向に導く 」という役割があります。 主人公の言動に共感できなくったって脇役の「 お前の考えは間違ってるぞ 」っていうセリフに読者も「 そーだろ!間違ってるよな 」って共感できるんです。 
昔の稚野鳥子さんの作品にはこの間違ってるっていう指摘がありませんでした。 主人公の極端な感情に違和感がありながらも、そのままお話が完結しちゃうっていう印象でした。 千野鳥子さんは絵もストーリーも上手なのに読み終わって納得できないマンガ家でした。 しかし今は脇役にいい仕事をさせるので読者が「 沙耶ッお前が間違ってる 」って思ってると脇役たちが作中で沙耶を叱ってくれます。 これで主人公がワカランチンでも他のキャラの言動に感情移入して作品に入り込めます。 

 表題の「 真昼の果て 」という作品は仙石寛子さん初のBLマンガです。 BLというのはわかる人以外は一切お断りっていう極めて対象が狭いジャンルです。 ところがこのBLマンガが仙石寛子さんの作品の中で、初めて感情移入できた作品でした。 ストーリーは主人公が幼なじみの女子から告白されてつき合うようになったが、追っかけで幼なじみの男子からも告白される。 女子とつき合い始めたけど男子のほうが気になってしまい(BLだから)女子と別れてしまう。 それまでは主人公と幼なじみの男子だけでストーリーが進んでしまい、女子の存在は空気になっちゃうところでした。 でも、今回は女子が三角関係の一辺にちゃんと存在するので、読者の「 なんで女子より男子なんだよ?」っていう率直な気持ちをこの女子がセリフで言ってくれてます。 そのおかげで「 真昼の果て 」という作品が主人公と幼なじみの男子の思い込みだけのマンガはなく、女子を通して感情移入できるマンガになっていました。 BLに女子が出るってことに納得できないファンもいるでしょうけどね。

 2作目の「 夜毎の指先 」は近親相姦(姉×弟)モノです。 もったいつけたセリフや意味深っぽいシーンがカラカラした感じの従来通りの仙石寛子作品でした。 仙石ファンには安心の出来なんでしょうけど、どこにもたどり着かないお話が7話も続くの?って感じです。 この2作品を比べると幼なじみの女子の存在の重要性がわかると思います。 彼女の役目は「 不自然なストーリー(BL)の中で不自然だって指摘する 」ということでした。 不自然なストーリーには読者は共感できませんが作中で「 お前らは不自然なんだよ 」ってセリフがあれば、読者も「 ほらっやっぱり不自然だろ?」って共感できるモンです。 マンガで一番ダメなのは「 わかってもらえなくて結構、理解者だけにマンガを描いてるんだから 」って言い訳です。 それは同人誌でやるべき仕事です。

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