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2014-01

銀の匙のこと その3 - 2014.01.04 Sat

荒川 弘さんの 「 銀の匙 Silver Spoon」 です。

 荒川さんの「 銀の匙・・・」は以前、12年10月の日記 「銀の匙のこと 」で書きました。 この頃はまだ3巻までしか出ていない段階での日記でしたが、おもに食育とマンガについて書いたような気がします。 ざっくりといえば、「 高校生にもなって育てたブタを食べちゃうのはかわいそう 」というのはちょっと幼稚なんじゃないのかな? っていう内容です。 このブタを食べる件については肯定的な意見も多く、この日記にもその旨の指摘がありました。 でもソレって高校が舞台のマンガでやるほどの内容かな?っていう違和感はあります。 それ以外にも「 農業高校あるある 」のネタやヒロインのアキが可愛くないとか書いてます。 
そして現在、週刊誌連載なのでもう9巻まで出ています。 1月には10巻も出ると思います。 「 銀の匙 」は小学館漫画賞を受賞して累計1000万部突破してアニメ化もして大ヒット作になりました。 以前の日記では結構ネガティブに書きましたが、実は今でも読み続けています。 以前に日記で取り上げた頃はあまり重要な作品ではありませんでしたが、最近では初期の印象と違ってかなり積極的に読んでいます。 これは連載中に漫画のテーマが変わってきたことが原因だと思います。 意図的なのか、予定された展開なのかこの作品は途中からマンガのテーマが変わりました。 コレはマンガのテーマを考える上でとても興味深い変化です。 したがって、もう一度「 銀の匙 」を取り上げてみたいと思います。

 アニメやマンガの設定についてこの日記で取り上げてきましたが、今回のテーマは“マンガのテーマ”です。 現在のアニメが設定至上主義的な風潮になっちゃってますが、設定がストーリーではないと書いてきました。 では、作品のテーマとはどういう位置づけなモノなのでしょう? 投稿マンガなどアマチュアの方々が必ず編集に言われることが「 このマンガのテーマは?」ということです。 同人誌を描いてるほとんどのマンガファンの方々にはテーマなんて関係ありません。 まどかマギカ本を作ってる人たちの作品のテーマは「 まどかマギカの二次作品を作る 」というテーマで創作してるといえそうです。 でも、ソレはテーマというよりもジャンルやコンセプトに近いです。 あえて言うならば「 まどかファンにまどか好きをアピールする 」って感じですが、ソレはすべての同人誌がやっていることです。 むしろ「 自分が楽しいから描いている 」とか「 今、まどかが売れ線だから描いている 」とか、これは作品のテーマじゃなくて同人誌の目的を言ってるだけですよね。


では、マンガのジャンルと設定とテーマとストーリーを少女マンガを例に分けてみましょう。 

『 隣接する女子校と男子校は昔から仲が悪く、ことあるごとに対立していた。 各校の生徒会長も険悪だったがふとしたきっかけで心が打ち解ける。 しかし生徒会長はとしては戦いの中心なので気持ちと裏腹に学校を代表して戦う羽目になるドタバタコメディー 』 

 このお話では、学園ドタバタコメディーがジャンル。 隣接する女子校と男子校や対立していたが設定。 心が打ち解ける、学校を代表して戦うがストーリーです。 それじゃこの少女マンガのテーマは何でしょう? それはこのマンガを読んで「 読者がどう思ってもらいたいか?」という部分です。 コメディーらしくスカッと笑い飛ばして欲しいのか? センチな純愛にしたいのか? 争いや対立を諫める教訓を伝えたいのか? 作者が読者にどう読んで欲しいのか? 何を伝えたいのか? ソレがテーマです。 投稿マンガの描き手の方々が悩んじゃうのはテーマという言葉に壮大な思想や社会性を考えちゃうからです。 映画「 男はつらいよ 」でのテーマは昭和の人間関係や失われていく風土、社会の落ちこぼれたちへの挽歌など、格好いい言い回しでファンが語っていそうです。 でも作品のテーマを突きつめれば「 笑って泣かす 」ということでしょう。 山田洋次監督が狙ったシーンで笑わせて、おきまりのシーンで泣かす。 コレが出来ているとき監督の勝利です。 最悪なのは泣かせに行ったシーンで失笑されることですね。  

 作品をどう見せたいのかというのは基本的に途中でころころ変えるモノではありません。 最近、ほのぼのアニメで始めたのに血みどろなクライマックスで終わるアニメとかが異常に多いです。 ほのぼのアニメのフリをして実は「ドロドロの修羅場というドラマが描きたかったって居直られちゃうとソレまでです。 でもそれは単に制作者の構成力のなさや引き出しの少なさが原因のようにも思えます。
「 銀の匙 」もスタート当初は「 北海道の農業工業に酪農とまったく縁の無かったガリ勉が入学した主人公 」の農業高校アルアル話でした。 それが農業高校という設定の強みなのでマンガの作り方は正しいのですが、“普通と違う”ということをネタにし続けるのはそのテーマが珍しい間だけです。 たとえば小林まことさんの「 柔道部物語 」はリアルというか現実過ぎる柔道部の描写で柔道経験者から絶賛されました。 しかも未経験の普通の読者にも「 柔道部という奇妙な世界がウケて大ヒット作になりました。 このときの主人公の三五も騙されて入部した文化系の新入部員でした。 構造は「 銀の匙 」と同じです。 最初は柔道部というへんな団体のマンガでしたが、マンガ的なキャッチで読者を掴んだらすぐに本格スポ根マンガにシフトします。 それは三五自身がすぐにヘンな団体側の人間になるから。 小林さんが描きたかった作品のテーマは“柔道部員はヘンな人たち”ではなく“柔道で成長していく主人公たち”だからです。

 「 銀の匙 」が変わったなって思えたのは7巻のエゾノー祭が終わったあたりから。 ソレまでの八軒(主人公)は周りの個性的なキャラや農業高という特異な設定で狂言回しのような役回りでした。 ヒロインのアキも自分を殺してイイ子ぶるキャラでした。 以前の日記でアキに魅力がないって書いたのはそーいう所です。 作品が描こうとしている道理とか理屈はわかるんですが、それが主人公の魅力か?って聞かれればソレは違うと思います。 主人公の魅力とは「 この主人公のストーリーを見続けたいと思う魅力ある行動 」にあると考えられます。 ものスゴく格好いい顔の主人公や可愛いだけのヒロインというのも存在しますが、マンガでは作中で「 どう行動したのか?」が問われます。 
このマンガでは、折しも駒場(いっちゃん)の家庭問題が引き金になってアキが初めて自分から動き出すことになりました。 それに伴い八軒は大学受験を目指すアキに勉強を教えることで存在価値を見いだせるようになりました。 この二人が初めて何かを目指す展開が始まりました。 もともと進学校から逃げてきた八軒と家業のために夢をあきらめていたアキです。 ここで作品のテーマが「 農業高の奇妙な人々」から「 今の自分に何が出来るのか?」に変わりました。

 八軒はそれまでもベーコンやピザなど作ってきて存在感を出してきましたが、アキに勉強を教えるというのは別の意味を持ちます。  個人的には1巻の次がすぐに7巻でもいいように思いますが、ソレは荒川さんのペース配分なんだと思います。 「 鋼の錬金術師 」のような大河ドラマの作家だからじっくり描く方針でしょう。 
前記の通り、作品のテーマをころころ変えるのはあまり良くないと思います。 まずは「 農業高校マンガ 」として読者をキャッチ。 その後「 進路問題の問題に発展する 」という構成を考えてると思います。 こーいう構成はいかにもアニメ的な考え方で興味深いです。 ここに来て八軒がガリ勉という設定が生きるのは、さすがファンタジー出身って感じですね。 
テーマが学校から八軒に移ったので、今後農業高設定がより生きると思われます。 設定が主人公の物語を面白くするのではなくて、主人公の物語が面白いから設定が生きるんです。

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