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2013-10

過去を語る演出について - 2013.10.14 Mon

Miss Lonely
調子の狂ったピアノのふたをあけてみる
初めて人前で弾いた
短い曲を覚えてる

サクラの季節がめぐり来るたび
男のこたちを思い出す
女王のたすきをかけて微笑む
ほこらしそうな自分が見える
Miss Lonely

紅すぎる口紅と
肩の落ちそうなワンピース
あてもなく迎えに出る田舎の駅

今でも遠い半島の国で
あの戦争は続くから
本気で愛したあの人はまだ
まだ帰れない私のもとへ

Miss Lonely
50年前の日付のままカードを書く
ときには写真に向って
白い髪を編んで見せる
Miss Lonely
身の上話をまともにきく人はいない

「 Miss Lonely 」  松任谷由実 作詞

 この曲はユーミンの「時のないホテル」というアルバムに収録されている一曲です。 自分がマンガなどのシナリオを考える時に影響を受けた曲です。 「どこを影響された?」っていう感じですが、最後の「身の上話をまともにきく人はいない」という部分です。 これはすべてのシナリオ書きに対する戒めの言葉だと思いました。
この「時のないホテル」は全9曲がドラマ性の強い名曲揃いです。 ジブリアニメで初めてユーミン知った最近の方々には、とくに聴いてほしいアルバムです。 現在のユーミンには作れない楽曲なのでオススメです。

KUJIRA さんの「てのひらのパン」の続きです。

 前回の日記では可愛い設定をことごとく無駄にしているというお話でした。 今回も「てのひらのパン」を題材にキャラへの愛着と感情移入について考えてます。 問題点としては主人公の胡奈が笑わない、相手役の黒川さんがいけ好かないということでした。 前回の日記では、キャラに魅力がないというのは「そのキャラと友だちになりたいって思えるか?」「恋人にしたいって思えるか?」で判断できますって書きました。 まず、どうして黒川さんに魅力が無いのかを考えてみましょう。
友だちになりたいとか、恋人になりたいっていうのはどーいうタイプでしょうか? 外観はさておき、明朗で実直、気さくで活発、ユーモアや見識などなど・・・ 全てを兼ね備えている必要はありませんし、そんなキャラは不自然です。 べつに理想を追求したキャラが正しいわけでもなく、ダメキャラでも愛着や愛情を感じるモンでしょう。 しかし必ず必要なのは好きになる要因をはっきりさせるということです。 どんなダメ男でも主人公が心を許しちゃうなら、読者が納得できるだけの理由を見せなくてはいけません。 では黒川さんはどうなんでしょうか?
彼の登場シーンは開店した「パンの店コナ」の外で行き倒れているところから始まります。 

1 容姿は髪ボーボーでいきなりお店のパンをわしづかみで食べ始める(無銭飲食)。 
2 無断飲食で捕まえたら「自分は記憶喪失です」とのこと。 
3 実は記憶喪失もウソで、本当は胡奈の姉の旦那の友人で有名な画家。 
4 絵本「てのひらのパン」の作者の息子で絵本のヒットで変わってしまい自殺してしまった母親を憎んでる。 
5 金で彼に絵を描かせるマネージャーの叔母から逃げ出して浮浪者に。
6 しかも絵描きだった旦那の作品を盗作して画家として成功した。 

ざっくりとしたプロフィールですが、ウソとか憎んでるとか盗作とか・・・あんまり友だちになりたくないようなディテールが気になりますよね。 それじゃ黒川さんのイイところってどこ? タウン誌にイケメン店員って書かれるビジュアルですが、胡奈がイケメンを魅力と思っていませんからイイところに数えられません。
とくに気になるのは「記憶喪失」のエピソードです。 実際に知り合いが記憶喪失になったという経験はあんまり見かけないことでしょう。 この記憶喪失は「逆向性健忘」というもので、お気軽なサスペンスやメロドラマでポピュラーな展開です。 医学的なことはさておき、物語の中で記憶喪失といたら読者は「あーそうですか」って思うしかありません。 たとえ「ありきたりな展開?」とか「ご都合的な?」って思っていても。 野球経験が全くないのに甲子園で優勝したり、3ヶ月勉強しただけで東大にうかったり・・・読んでいて「そんなわけあるかい!」って思っても、作者がそう描いたならそー言うもんだとなっとくするのがマンガっていうジャンルです。 したがって絶対にやっちゃイケないのは「記憶喪失はウソでした」というシナリオです。 

「己が何者なのか、わかるのがいやで・・・」
「何を忘れたのか・・・身元がわかってしまったら、それを取り戻せそうにない気がして・・・」

これは黒川さんが記憶喪失で病院へ連れて行こうとする胡奈に言ったセリフです。 ちょっとなにを言ってんだかわからないセリフですが、この段階ではまだ「記憶喪失はウソ」という展開ではありません。 読者の得た情報では「黒川さんという風来の記憶喪失者の“思い出せない過去”にはどんなドラマがあるんだろう?」って想像します。 でも記憶喪失がウソなんだから「何者かわかるのがいやで」もウソ。 「何を忘れたのか」も忘れてないし。 「身元がわかったら・・・」って、わかってるし。 これらは胡奈へのウソじゃなくて読者へのウソです。
胡奈の「忘れたものはなんですか」と問いに黒川さんは「色々な心ですかね」って答えています。 そういう格好いいようなセリフを言わせたい気持ちはよーくわかります。 でも、だからこそ文脈を考えるべきだと思います。 本編によく出てくる絵本からの引用するシーンも「絵本がマンガの重要な役割を持っている」という格好いい構成にしたいだけなんでしょうが、やっぱり文脈がわかりにくいです。
実際にこの展開で2巻をかうつもりはなくなっていました。 忘れた頃に2巻が発売されて「読むのを止めたっていうことを忘れちゃっていた」ので2巻を買ってしまったというのが本当のところです。 
星里もちるさんのマンガにありがちな「実はわたしは宇宙人なのです」とか「未来人です」なども作者が言うのだからそうなんだろうっていう約束事で読んでいるのです。 記憶喪失という展開もマンガが作り話だと前提にしているからこそ許容できますが、作中でウソって言い出したら前提条件が存在しなくなっちゃいます。

 上記の黒川さんのプロフィールのうち、1~4までは1巻目のストーリーの部分です。 2巻目になると5~6という黒川さんの本質の部分が見えてきます。 
1巻目で「絵が描けなくなったのは、ボクの欲深さの結果です」と言っていました。 
2巻目で「お金のために描くことはできません」「金額の大小で他人の評価が変わり、もっと金になるモノをって言われているうちに描けなくなってしまった」という言い分です。 
そして喜一(胡奈の義兄)の作品を盗作して入賞したコトをバラしたあとは「評価されているのは喜一の作品なんです」って言い出します。  絵が描けない理由(言い訳)がドンドン変化しちゃっていますね。

 このマンガを読んでいると「最初はこうだと言っていたのに本当は違うんだよ」っていう展開が気になります。 胡奈にしても黒川さんにしても「こう見えて実は過去に“こんな事情”があったんです」っていうストーリーです。 パン屋を開くことを夢見て自らの努力で開業したのに「こんな私にパンを作る資格なんてない」って言い出すお話になっちゃうんですよね。 こういう過去を振り返るお話の作り方を得意とする作家も多いです。 最近のアニメのほとんどがこのパターンのシナリオで構成されています。
少年マンガの場合は主人公が次々と現れる敵キャラと戦う必要があるので、どんどん新しいステージを用意しなきゃいけません。 しかし少女マンガのメインテーマは戦うことじゃなくて心の葛藤です。 したがって過去にどういう経験をしたかがキャラの心情に大きく影響します。 だから少女マンガは「ストーリー上で過去に戻る演出」が多々見られます。 でも過去の出来事のみがストーリーの全てではなんだかヘンですよね。 物語は現在進行形で描かれるのが一般的です。 それが読者も一番理解しやすいです。 いろんな時代を同時進行させるような作り方もありますが、読み手が混乱しやすいので作者に高度な演出力が必要になります。 
マンガを描く技術の中で基本中の基本は読者にとってわかりやすい(混乱しない)ということです。 アマチュアのマンガを描く方で絵が下手っいうのは全てのキャラが同じ人物に見えることを言います。 デッサンが合ってるのかなんて美大の入試以外では何の意味もなさないです。 パースが狂ってても誰が誰かわかればなんとかなります。 これは読者が混乱しないために最低限守らなきゃいけないルールです。 
ストーリーの流れの中で主人公の過去が明らかにされるのはよくある演出です。 でも、それは現在のストーリーを進めるための補助的なものでなければいけません。 少年時代にトラウマな事件があった主人公のお話なら、大人になった主人公が過去を思い出すのではなくて少年時代のマンガを描けばいいんです。

ちょっとわかりにくいので例をあげてみましょう。


 画像の4コママンガはシンデレラのお話を普通の時系列で進む展開と過去にも戻る展開の比較です。 右側は原作のシンデレラと同じ順番でお話が進んでいます。 じっくりと物語を連載するのに向いている方法です。 左側はいきなり舞踏会(クライマックス)から始まっています。 読み切りなど短期に決着をつけるのに向いた方法です。 左のパターンでは4コマ目で「なんで舞踏会に参加できたのか?」を説明しなきゃいけません。 そうしないと1コマ目のなんで舞踏会にいるのかがわからないからです。 それはシンデレラという物語のほぼ半分を“シンデレラ自身のセリフで語らなきゃいけない”ということです。 だんだん問題点がわかってきたと思います。 それはもうマンガじゃなくて4コマ目は小説になっちゃってるんですよね。 だったら小説を書けばいいじゃん? っていうことになります。
このパターンに陥りやすいのはストーリーを謎解きだと思っている人です。 主人公の秘密や謎などの見えない部分を告白(暴く)ことがストーリーの目的になっちゃうパターンです。 実はこの「謎解き」が好きな人は作者にも読者にもとても多くて、恋愛モノや青春モノ、未来SFにいたるまでミステリーの最終回のような展開になっちゃう作品が多いです。 謎を解明することで読者が「なるほどね」って思うんでしょうが「主人公はそのあとどうなるの?」っていう部分には答えていません。 主人公がなんで泣いていたのかは謎解きでわかったけど、そのあと主人公が笑って暮らせるにはどうするの?っていうところを描くことが物語のハズです。 そこが犯人がわかれば解決というどこぞの少年コナンとは違うところですから。
今回の「てのひらのパン」のように読んでいるときの印象がころころ変わっちゃう原因として現在のあとに過去を描くからということがあります。 過去に次に今を描くのなら、最低限つじつまは合うハズです。 でも今が決まってしまったあとに過去を描くとつじつまが合わなくなりがちです。 アニメや映画の続編でよくありがちです。 エヴァンゲリオンは全部コレです。 「実は人類補完計画は・・・実はセカンドインパクトは・・・」など「実は・・・」っていうのは実に好きですよね。 でも、それって物語ではなくて設定でしょ? 塀の外の巨人が何なのかがストーリーなのか? 主人公の人間の生き様がストーリーなのか? 

 「てのひらのパン」でKUJIRAさんが描きたかったテーマは誰もが過去に背負った闇の部分があるってことなのかな? でも闇を振り払う術はあんまり興味がないって感じです。 主人公を示唆するような格好いいセリフを言わせたかったけど、あんまり的を射るセリフが書けなかったようですね。 それこそがこのマンガを読んできた読者が求めているオチなんだから・・・

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