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2013-09

こけし目と下まぶた - 2013.09.19 Thu

小森羊仔さんの「青い鱗と砂の街」です。

 小森羊仔さんというマンガ家をご存じでしょうか? コモリヨウコ?たぶん聞き慣れない名前かと思われます。 “小さな森の仔羊”という「なんて弱っちい草食な名前なんだ」って思いますよね。 強そうな名前の例だと郷力也(ミナミの帝王)さんやハロルド作石(BECK)さんなど。 あくまでイメージですけどね。
実は、小森羊仔さんは投稿マンガ時代から目をつけていました。 彼女は集英社の少女・女性マンガの新人グランプリ「金のティアラ大賞」の第4回の銀賞受賞者でした。 この新人賞は金賞500万円、銀賞200万円、銅賞50万円と金銀には2年間の専属契約がつくという破格なマンガ賞です。 金賞(大賞)は第1回に選ばれただけで今後は出さない思惑だろうから、小森羊仔さんの銀賞は実質的に最優秀賞にあたります。 今年度は初めて金・銀ともに該当作なしという結果でした。

 第1回から去年の第5回までの入選作は全てHPで読めるのですが、この中で唯一「単行本が出たら読みたい」って思えたのが小森羊仔さんの作品でした。 タイトルが「きみが死んだら」という交通事故死した彼氏を死者蘇生術で3日間だけ生き返らせるというお話です。 そもそも投稿作品に多大な期待をするモンじゃないのですが、この作品もあんまり面白くはありませんでした。 投稿作品って、すぐに人が死ぬお話とか描きたがる傾向があります。 「死とか悪魔とか宇宙人とかを題材にしたら、即1次審査で落とす」とかでもいい気がします。 でも、小森羊仔さんの作品はソレを差し引いても一番読みやすいマンガでした。 投稿マンガって頑張りすぎか頑張り不足のどっちかだが、小森羊仔さんは作品の大きさに対して丁度いい情報量をわきまた描き方でした。 
金のティアラ大賞はアマチュア向けのマンガ賞ではありません。 すでに集英社で担当が付いてプロ原稿を描いているプロマンガ家の卵のための賞です。 したがって「絵は練習不足だけど勢いがある」みたいなジャンプやマガジンの批評レベルは2次審査すら通りません。 でも入選作はどれも一通りマンガになっているんですが、面白いか?といえばそーでもありません。 「きみが死んだら」もラストシーンになるとモノローグになっちゃうなど、投稿マンガにありがちな失敗をしています。 それが無ければ金賞に手が届いたかもしれません。

 いかにも自分が金のティアラ大賞で発掘したような書き方ですが、小森羊仔さんのコトなんかすっかり忘れていました。 むしろ初めから憶えるつもりもありませんでした。 彼女の名を再び見たのは2012年の春過ぎに「シリウスの繭」というYOUのレーベルの新人マンガ家の初単行本を買ったのがきっかけです。 集英社系の少女マンガ家さんで知らない名前の場合は一応金のティアラ大賞の受賞者を調べるんですが、そこで「小森羊仔さんは第4回の銀賞の人だ」って気がつきました。 しかし絵柄もストーリーも投稿マンガのときの印象とは全然違っていました。 
初連載の「シリウスと繭」のキャラは本来の平板な顔にこけしのような目の描き方です。 描き込みによる情報量を抑えた“幼い印象”の画風です。 一般には描き込んだほうが絵が上手と思われがちですが、線が少ない分だけ見やすい(取っつきやすい)ともいえます。 宮崎アニメの原理ですね。 こけし目のタッチでメジャー作家で思いつくのは岩岡ヒサエさんなどです。 この描き方ではスゴい美人とか酷いブスとか、極端な顔が描き分けしにくいです。 コレはメリットでありデメリットでもあります。 キャラの容姿に差がつかないのでキャラの描き分けしにくいのですが、全てのキャラをフェアに描くことができます。

 マンガのテーマが「スゴい美女や美男子を眺める」ならばスゴい美形を作画できなきゃ話になりません。 しかし学園のアイドルや目立たないけどじつは美人という都合設定でもない“本当にどこにでもいる顔”のキャラクターのお話ならばこけし目でも通用します。 可愛い顔が欠けるのだったら全員可愛く描けばいいと思われるでしょうが、それだと可愛くないキャラを可愛くなく描かなきゃいけません。 
「シリウスと繭」は高校生の主人公の繭と親友のメグちゃん、天体少年のハルとの青春の三角関係マンガです。 単行本の帯のキャッチは「100%ピュア・ラブ・ストーリー」って書いていました(笑) 3人の登場人物はクラスの中心でも孤立しているわけでもなく、どこにでもいる普通の高校生です。 
小森羊仔さんの絵柄の特徴はシンプルな「こけし目」なキャラときっちりしたコマ割り、小さいコマにも極力背景を描き入れるところですね。 ティアラ賞のときは無理して今風の女性誌タッチっぽく描いていた感じですが、「シリウスの繭」のほうが小森羊仔さんの本来のタッチなんでしょう。 しかし、「シリウスの繭」では絵柄やストーリーが幼い印象を持たれるので、ほかの応募作に埋もれちゃう危険があります。 なんだか小森羊仔さんが描きたいマンガは「シリウスの繭」なんだけど、ティアラ賞狙いで作為的に「きみが死んだら」を描いたって感じかな?って思ってました。

 「シリウスの繭」はピュア・ラブ・ストーリーかどうかはわかりませんが、フェアなストーリーだということは間違いありません。 銀賞受賞作の「きみが死んだら」は死者蘇生術とか変化球で振らそうという意図がダメダメっぽかったんですが、長編を描く小森羊仔作品は信用できるという印象です。 しかし、こけし目の平板な顔だと表情が乏しくなりがちで、感情の起伏をセリフやト書きの文脈に頼りすぎる傾向になりがちです。 
「きみが死んだら」の受賞当時の批評では「優しくて雰囲気のある絵と話。全体の雰囲気程にモノローグにも独自の個性があればもっとよかった。」(いくえみ綾氏)「絵も話も独自の世界があり、完成度も極めて高い。台詞やモノローグにも詩的な響きがあり、読後感も良い。」(くらもちふさこ氏)「まんまと引っかかってしまった。面白かった!エピソードとして重要なシーンの絵は逃げないで描こう!」(槇村さとる氏) 各先生方の意見では絵柄とモノローグに対する評価が割れているようです。 

 そして今年の夏に新作の「青い鱗と砂の街」第1巻が発売されました。 本屋さんで見かけたのですが、また小森羊仔さんという名前を失念していて「シリウスの繭」の人って気がつきませんでした。 しかも小森羊仔さんはまた絵柄を変えてきました。 今までのこけし目に変えて、下まぶたを描くようにしてきました。 主人公の青山時子という女の子だけに採用された描写なのですが、文脈に頼らなくても感情の起伏が顔で表現できるようになりました。 この作画は止め絵だと昔の中国アニメのようなキツい印象を与えがちな方法です。 でも作品中では前作に比べてとても良くなったと思います。



マンガのキャラの善し悪しの大部分は目の描き方や解釈によるものです。 自分のキャラの目を変えるのは陸上選手が短距離から高跳びに替わるくらい大変なことです。 平板で幼いイメージも新作では主人公を小学6年生にすることで、むしろストーリーにマッチしたキャラになっています。 子供が主人公だからって「りぼん」向けではなく、しっかり「YOU」レーベルの作品に仕上がっています。 いなか街、転校生、人魚伝説、4歳の記憶、わだつみ様・・・小森羊仔さんが描きたいのはピュア・ラブ・ストーリーよりもこーいうファンタジーなんでしょうね。 やっぱり「きみが死んだら」が描きたかったんだと納得しました。

 この先「青い鱗と砂の街」はもっと読者から評価される大きな作品になるような予感がします。 しかも、その次の作品ではまた描き方がどこか変わっているんだろうと思います。 
それくらい小森羊仔さんというマンガ家は信用できると太鼓判を押せます。 ポンっと!

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