topimage

2012-06

「優しい」という設定 - 2012.06.10 Sun

原作 吉浦康裕さん、作画 太田優姫さんの「イブの時間」全3巻です。

 らいかの日記の2月28日「電気羊の夢ってなに?」という記事の続きです。 作品のあらましなどはここに書いてますので、未読ならばお手数ですがご覧になっていただけると手っ取り早いです。 前の日記では2巻までを読んでのコメントだったんですが、作品が完結したのでふたたび取り上げてみました。 元々はアニメ版の「イブの時間」という原作があって、それのコミカライズしたのがマンガ版です。 したがってある程度の結末は決まっちゃってるようです。 自分はマンガ版しか知らないのでアニメの善し悪しを語るつもりはありません。 前回はSF設定と脚本について書いたので、今回はマンガの中のテーマについて書きたいと思います。

 自らマンガを描いて“投稿”しようとした経験がある方なら「マンガのテーマ」について考えたことがあると思います。 マンガ家の入門書でも必ず「最初にテーマを決める」って書いてあるハズです。 マンガのテーマというと高尚なメッセージや教訓を考えがちですが、マンガにそんな難しいモノは必要ありません。(あってもいいけど) ようするにテーマを決めるとは「読者にどう読んで欲しいか?」を考える作業です。 問題提起をしたいとか、戦いの展開にドキドキして欲しいなどのストーリーに絡むことや、笑って欲しいとか泣けるマンガなど漠然とした感じでもいいです。 広い意味で言えば「マンガを描く目的」がテーマです。 投稿マンガでテーマを決めずにマンガを描いても100%落選します。 先にテーマを決めなきゃ面白いマンガを描くことは不可能です。 同人やネットでマンガを描き慣れてる方々で、そんなこと考えなくてもいつもマンガを描いてる人だっています。 その方々はいつものようなマンガを描くというテーマでマンガを描いていることになります。 それが読者に向けてなのか自分の為なのかは別ですけどね。
ストーリーマンガやアニメの冒頭(1話目)では、その作品が何についてのお話なのか描かれています。 どんな事件が起こるのか?みたいなネタバレではありません。 どんなテイストの作品なのかが判るように描かれている必要があります。 恋愛マンガを描く場合では1話目から恋愛マンガってことを伝えないと、恋愛マンガが嫌いな人が間違えて読み続けちゃう可能性があります。 恋愛でもコメディーなのかドロドロなのかもハッキリさせた方が親切ですね。


ミナンダ


 「イブの時間」の冒頭は主人公のリクオとアンドロイドのサミィの心の葛藤のお話でした。 そのためにアンドロイドの存在する近未来という設定になっています。 1巻目はイラつくリクオと蔑まれるアンドロイドって展開です。 2巻目はリクオがアンドロイドに過剰反応する理由について。 2巻まではリクオとサミィの関係性がメインの構成です。 そしてラストの3巻目ですが、ここで物語の中心は「倫理委員会」とか「サミィが作られた契機や開発者」に移っていきます。 いわゆる「全ての謎が明らかにされる」っていうやつです。 前の日記で心配していた通りの展開になっていました。 大抵のSFアニメのクライマックスはこのパターンです。  
サミィの秘密がリクオとの気持ちのすれ違いに関係するのなら、謎解きの展開も納得できます。 しかし主人公のリクオとまったく関係のないところで物語が進むのは腑に落ちないです。 最後はあんなに意固地だったリクオがサミィに優しくなって大団円です。 あれれっ・・・?

 1話目を読んで、このマンガは「人間とロボットが区別される世の中で、“イブの時間”という喫茶店では人もロボットも越えて優しくなれる」というお話だと思っていました。 よって、作品のテーマは「優しくなれるマンガ」だと考えられます。 でも実際に描きたかった内容は「何故、イブの時間という店が存在するのか?」とか「何故、リクオや友人はアンドロイドの感情を否定するのか?」です。 きっと原作のアニメ版のストーリーがそうなんだと思います。 アニメは「何故?」が大好きで、「何故?」の答えこそがクライマックスだから。 それは「ミステリー」の手法で「優しいマンガ」の手法ではありません。 だったら1話目からサスペンスな雰囲気を漂わせなきゃ不親切です。 自分は「大人は汚い」と叫ぶ中学生が「君ももう大人なんだよ」と大人たちに気づかされるようなお話だと思ってしまいました。 ミステリーの伏線に一生懸命で優しさを描くことが二の次になっては本末転倒でしょう。 本編ではイブの時間という店がレジスタントの秘密のアジトのような描かれ方です。 それもアニメ的なんだろうけど。 
このマンガを読んでいてもイブの時間に行ってみたいとは思えません。 この店はヒト目線でもロボット目線でも特別楽しい店とは表現されていません。 「優しい」というコトバ自体が物語りの設定に過ぎないから。 リクオがイブの時間にこだわる理由が「サミィがアンドロイドのくせに、命令外で謎の店に出入りしていることが気にくわない」だから謎ときのお話になっちゃうんです。 「あの店は怪しいけど赤塚不二夫やタモリなんかがいつもいて楽しい・・・」みたいな動機のほうが読んでるほうもワクワクします。 世の中の通説や倫理委員会の扇動に染まった主人公が、イブの時間で自分がいかに視野狭窄になっていたか気づいて成長していくほうが」いいですよね。 実際の本編ではアリガトウやゴメンナサイが言えない幼稚園児に「みんなで仲良くしなさい」って教えてあげるレベルの内容が続きます。 読者は幼稚園児じゃないのに・・・

モビル・クリーナー

 アニメでのテーマの補足ですが、名作「エヴァンゲリオン」のテーマって何だと思いますか? さまざまなギミック満載のこの作品は謎の宝庫です。 エヴァ論とか社会現象とか言われるほどの大作です。 でも作品のテーマは「14歳」と「アニメマニアの欲求に答える」です。 
何故みんながみるのか? レイやアスカが14歳だから。 何故、謎が多いのか? アニメファンは謎が好きだから。 このパターンの作品の特徴は「一番面白いのが1話目」で「1番納得できないのが最終回」です。 かなりのアニメ作品がこれに当てはまります。 クライマックスを描くために始めた物語じゃないので永遠にドラマが続きます。 ストーリーの中盤に新展開になります。 コレは途中で“新しい1話目”が始まるってことです。 この手法では1話目が一番盛り上がるから。 作品中になんども1話目がきて、そのたびの新しい謎が提示されます。 だから伏線ばっかり増えてどんどん思わせぶりな作品になっちゃいます。 情報量が増えるとムック本が売れて劇場版が作れます。 そしてまた劇場版で新しい1話目を見ることができてファンは満足でしょう。

「ほぉ」って思ったら押してね

NEW ENTRY «  | BLOG TOP |  » OLD ENTRY

管理人のらいかです

マンガを描くという事を目標にして
マンガの描き方を考えるブログです
(ネタバレの可能性があります)

は記事の内容に「ほぉ」と
思えたら押して下さると嬉しいです

最新記事

訪問していただいた人数

月別アーカイブ