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2012-01

主人公に必要な魅力 - 2012.01.25 Wed

佐原ミズ さんの「 鉄楽レトラ 」です。 

 佐原さんは「 マイガール 」のヒットでドラマ原作者という地位を築いたマンガ家さんです。 そのヒット作が終了後、何を題材に次回作を描くのかがファンには気になるところでした。 なんと、佐原さんが新作にステージに選んだのは少年誌でした。 とはいっても「 ゲッサン 」(少年サンデーの2軍雑誌?)なので、前作を描いていた「 コミックバンチ 」よりは出世したのかどーかは微妙な感じですね。 カタチとしては「 ハチクロ 」が終了した羽海野 チカ さんが「 ヤングアニマル 」で将棋マンガを始めたのに似ています。 当人もそれくらいの転身感を出したかったのかもしれませんね。

 それでは「 鉄楽レトラ 」は「 3月のライオン 」を越える作品になるのでしょうか? 去年の秋頃に第1巻が出てるので佐原ファンはとっくに購読済みのハズなので、越えたかどーかは各自結論が出てると思います。 マンガって本来は比較したり採点したりして「どの作品が一番面白いか?」などと決めることにはナンの意味もありません。 しかし佐原作品に限っては他のマンガと比べることで見えてくる部分があるようです。 むしろ比べないと解りにくいです。 単純な印象だと「 鉄楽・・・」と「 3月・・」は不思議なタイトルっていう共通点がありますね。 佐原さんの描くマンガの特徴は水彩画のような淡い描写の美しさとキャラクターの優しさや儚さ、そして個性的なシチュエーションだと思います。 前作もコハルの可愛らしさだけで寄り切ったお話でした。 それを支えていたのは圧倒的な画力でしょう。 でも、正宗君(コハルの父親役)が納得できるキャラだったかはギモンでした。 一般の読者にはそうは思わなかったようなので大ヒットしたんですが・・・   

 自分が思うに佐原さんの描くマンガはキャラの絵は素敵だけど色々なところがヘンなんです。 とくに心情や生い立ちなどの基本設定とかエピソードが。 独創的というよりも独走的って漢字がぴったりな感じですね。 今回の作品はオープニングが痴呆症の祖父。 主人公の少年は中学時代に引きこもりで、2時間かかる知り合いのいない高校に入学するも“一人弁当”状態。 この絶望的な陰々さをどう盛り上げていくのか?っていう始まり方です。 マンガの主人公が明るい活発なリーダータイプであるべきだとは思いません。 弱さやマイナスの性格を全面に出したキャラでも構わないハズです。 ただし読者が共感をもてる場合にかぎります。 主人公が悪事に手を染めている物語では「この主人公は事情があって今はこんな風情だが、元々はこんな人じゃないんだよ」とか「借金を背負わされて・・・」とか「生まれた時に親に捨てられ・・・」などの共感する為のエピソードが必要になります。 コレさえあれば人殺しの主人公にだって愛着をもてるようになります。 バイオレンスには関係ない話ですけど。 

 「もう、人と関わろうとは思わない」 そんな主人公の鉄宇(きみたか)は自業自得でクラスからシカトされ、友達もいない無気力な高校生活が始まった・・・ コミュニケーションが取れないキャラは今の時流に合っているようにも思えますが、鉄宇のキャラ設定があまりにも陰気すぎてマンガの主人公としては違和感があります。 同時期の連載で久保ミツロウさんの新連載で「アゲイン」があります。 こっちも「モテキ」がドラマ化されて時流に乗ったキレキレのマンガ家さんです。 折しも3年間クラスメートに無視され続けていた高1男子っていう設定も似ていますね。 久保さんと佐原さんの主人公キャラの違いはなんでしょう? それは久保さんの方は感情移入が出来るけど佐原さんの描く主人公には感情移入したくないってことです。 久保さんは少年マガジンで鍛えられたのがイイ方向に出ていると思います。 理屈をこねる前にまずキャラを立てることを徹底的にやります。 前作の「モテキ」もキャラ立ちまくりでした。 商業的なマンガと言えばそうなのかもしれませんが、面白い作品にする手段としては正しいやり方でしょう。 主人公も根暗で無気力で自虐的な性格ながら周囲の勘違いによってシカトされただけの“本当は情に厚いイイヤツ”って設定です。 なので読者も抵抗なく応援(感情移入)することができます。 それに比べて鉄宇は“本当に友達になりたくないヤツ”って設定です。 自業自得なエピソードも読者も含めて誰一人この主人公を応援したいとは思わないでしょう。 現実にクラスに馴染めないで孤独な学園生活を送った経験のある方々にとっては、佐原さんのキャラのほうが真実なのかもしれません。 久保さんのキャラはいかにも作り話なので現実の孤独にはかけ離れています。 でも、佐原さんのキャラは魅力的なキャラとは言えません。 現実に友達のいない孤独な読者には感情移入されるのかもしれませんが、それじゃ作品じゃなくてセラピーになっちゃいます。 


鉄楽レトラ

(簡単に女の子の顔に傷をつけちゃダメでしょ?)


 では、佐原さんのマンガはどこが評価されているのでしょう? 間違いなくキャラクターの魅力につきると思います。 しかし、ストーリーの巧みさはうーん?って感じがします。 小道具に引っかけたストーリーが好きなようですが“こじつけ感”が気になる印象です。 持ち前の高品位画力のおかげでイイキャラとして受け入れられがちです。 でも、前作の親子モノもシナリオだけで考えれば共感出来ない部分が多い作品でした。 今回の鉄宇のキャラは「友達のいない孤独な少年をデザインしたらこうなる」といった文法で作られたのかもしれません。 それは「萌えキャラは目を大きく・・・」とかと変わらない作り方です。 冒頭の「3月のライオン」との比較の件ですが、羽海野さんは桐山零の人生すべてをデザインしています。 零と鉄宇は同い年で学校での境遇も同じです。 羽海野さんの演出の特徴は支えるキャラをたくさん登場させることです。 だから安心して破滅型のキャラのキツい展開でも読み続けられるのです。 

 2巻以降はやりたいことを見つけた鉄宇がどう変わっていくのか?っていう展開っぽいです。 斜に構えずに真っ向からダンスマンガに専念すれば面白いマンガになっていくかもしれません。 でも、陰気なキャラは変わらないんだろうなぁ。 佐原さんは成長して変わるっていうキャラはあんまり登場したことが無いですから・・・

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